DNA の利用(悪用)について (2008年03月21日)
Wall Street Journal (WSJ)紙が先ごろ、イングランドとウェールズの DNA データベースに関する興味深い 記事 を書いている。ちょっと紹介しよう。
「ガタカ」という映画、というかこの映画に対する人々の反応が筆者の頭から離れない。筆者がバイオメトリクスに言及すると、必ず「ガタカは見たか? DNA 鑑定による未来が怖くならない? 」という声を聞く。実際、そのようなことはない。DNA 解析が向かう先は確かに怖いかもしれないが、DNA鑑定はまた別の話になる。
だから?
まずはDNA解析について話をしよう。常に懸念されるのは、保険会社が DNA を使い、病気の遺伝がある顧客には高い保険料を算出して差別する(あるいは保険への加入自体を完全に拒否する)ことだ。さらに、雇用者が社員検査に利用する心配もある。
保険会社による DNA の悪用は、容易に回避できる問題である。保険会社が特定の統計データ(例:宗教、人種)を使えれば、収益性の高い保険を引き受けられるようになり、当然(プライバシーの侵害であったり、差別であったり)他の悪いことにもつながっていくだろう。だが、連邦議会はこの情報を(例えそれが手元にあっても)保険料の算出に利用することを違法とする法案を何年も前に可決している。一件落着である。
DNA 解析のもう1つの脅威が従業員差別で、これはそう簡単には片付けられない。採用時の遺伝子情報利用を禁じる法案を通すことも可能だが、その執行は非常に難しいものになる。重さ200グラムほどで200ドルというかっこいい「iDNA」解析キットが Apple から発売されれば、先見の明のある雇用者なら、捨てられたコーラの缶から唾液を採取して分析し、適当に理由を考えて不採用にすることができる。こうした行為を禁じる法律を違反するケースは相当横行するだろう。
ところが、DNA ベースでの鑑定は全く異なるものだ。人を正確に特定する能力は、容疑者の逮捕と潔白の証明を助けることになる(ここで WSJ の記事の登場だ)。その証拠はイングランドとウェールズだけ見ればよい。未解決事件も、(あらかじめ保存しておいた) DNA のサンプルが存命の犯人のものと一致すれば、最大35年経過していたとしても捜査も正常に再開できるのだ。
筆者は、イングランドとウェールズは先行事例だと信じている。この地域に住む人口の8%近くが、役所の一元管理されたデータベースに自分の DNA を持っている。これは世界まれにみる高い割合だ。なぜこのようになったのだろうか? それは、これらの国々では(どのような罪でも)逮捕されるとサンプル用にDNAを採取され、たとえ告訴されずに釈放されても採取されたDNAそのまま保管される。幼い子どものサンプルもデータベースに入っている(成人人口の8%が法に触れるような問題を起こしているとは信じがたい。何かほかの要因があるはずだ。もしかしたら当局が「歯の妖精」(訳者注:米国では抜けた歯を枕の下に入れて寝ると、Tooth Fairy(歯の妖精)がやってきて、歯の代わりにお金を置いていくといわれている)の行動に多少知っているからかもしれない)。
容疑者以外の DNA を採取することは、その人物を容疑者扱いすることになるとの懸念があり、良くないことである。でも、筆者には何とも言えない。戸別訪問捜査や(飲酒運転を取り締まる)検問も全員を容疑者扱いするような印象を受けるが、だれもが不満も言わずに受け入れている。
もう1つの懸念は、採取されたサンプルがハッキングされて解析が行われてしまうというものだ。専門家は サンプルは全ゲノムのごく一部であり、どのような遺伝性素因も判断できないと断言している。もしこれらの主張が信頼できると思えるなら緊張しなくても大丈夫だ。
実際筆者は、DNA の(解析ではなく)鑑定を巡って基本的人権を争う確実な事例はまだ聞いたことがない。何か事例があれば是非お知らせ下さい。ほかの多くの人々と同じように、筆者にも本能的に身を守ろうとする反応がある。しかし、このような話はまだ1つも聞いたことがない。

コメントする