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ロンドンのヒースロー空港が、5番ターミナルに新しい車両トラッキングシステムを設置した。そこはかなり巨大なターミナルのようで、5階あるうちの1階分の延べ床面積は「サッカー場」10個分(The Mail からの引用だが、米国人である筆者には想像も付かない)に相当し、合計4000台が駐車できる。まさに巨大複合施設で、駐車してから帰途に就くまでの間に自分の車の駐車位置が分からなくなるのはほぼ確実だ。

 

だが心配はいらない。5番ターミナル には今日製造されているもののなかで最も高度な屋内車両トラッキングシステムが設置されている。入場すると駐車場所を決めてくれ、床に埋め込まれた矢印の電光掲示でそこまで案内をしてくれる。帰りは、パーキングチケットをキオスク端末型の便利な精算機に入れると 3D 地図が表示されて駐車位置を教えてくれる。これだけで、重い荷物を引きずってあちこち車を探し回る運動を回避できる。

 

だから? 

 

これらはすべて、パーキングチケットを車内においたままにせず、持ち歩いていることが前提だ(悲しいかな、筆者のデフォルトは前者だ)。このシステムには、戻ったときに指紋やナンバープレート番号を(音声)入力するなど、何らかのバックアップメカニズムを採用した改善も望まれる(システムが入庫時にナンバープレート番号を検知し、この番号を使ってアカウントに請求する自動支払サービスもある)。しかし、それらは単なるあら探しにすぎない。

 

また、このシステムはエコロジーの側面からも得るものが大きい。空港関係者の試算では、車で空きスペースを探し回る時間が減るため、炭酸ガス放出量を1年あたり397トン削減できるという(このような炭酸ガスの試算で筆者がいら立ちを覚えるのは、分母が決して出てこない点だ。もし39700万トンから397トン削減されるというのであれば、驚きも何もない。しかし、3970トンから397トンならかなりのものだ)。

 

スパイ衛星もしくは(よりもっともらしい例として)都市型ビデオ監視網を使った同様の屋外サービスも想像に難くない。携帯からこのサービスにメールを送信し、最も近い駐車スペースへの地図を送信してもらう。何とも言えないが、このようなサービスなら1回当たり1ドル払っても良い(もちろん、ヒースロー空港のものと違い、こちらのシステムでは到着するまでに「自分の」空きスペースを他人に容易に奪われてしまう可能性もある。せっかくこのサービスで炭酸ガス放出と渋滞を低減できても、1回ケンカをして訴訟になれば台無しだ)。

 

いずれにせよ、永遠の苛立たしい問題に対処したヒースロー空港と、次回の空港利用時に必要なエクササイズをしないで済むことになった筆者にはおめでとうと言いたい。


Wikinomics 3:アイデアゴラ (2007年12月28日)


Wikinomics
(ウィキ経済)を読めば読むほど、筆者の頭のなかには短期連載では正当な評価を下せない、との強迫観念が押し寄せる。当初は「読者の手間を省くために Wikinomics を読みたい」と思っていたが、残念ながらそれが神々に対する不遜だったことに納得させられた。今の筆者は、自分が必要以上に長い(そして多少息切れしている)かもしれないが読む価値のある同書の広告塔だと思っている。

 

さて 「アイデアゴラ」についてだ。ギリシャ語の授業を覚えていれば分かるが(筆者は覚えていない)、市場(アゴラ)は何かを生み出すもののことで、この言葉は(驚くなかれ)「アイデア+アゴラ=アイデア市場」を意味する。

 

だから? 

 

さて、著者の Don Tapscott 氏は イーライリリー(国際的な製薬会社)が2001年に立ち上げたアイデア市場の InnoCentive について述べている。InnoCentive では、企業がリサーチで抱える問題を投稿すると、会員の科学者(175国、9万人以上)が現金報酬を見返りにそれを解決する。InnoCentive サイトを一見すると、現在の最大報酬額は100万ドルと、かなりやる気にさせる額となっている(もちろん、もっと関連性の高いものとして平均がいくらか、という問題もあるが、同サイトではそれを明かしていない)。

 

アイデアゴラの背景にある概念は、世界を自社の研究開発部門の一部として扱うというものだ。自社の顧客を理解する社内の研究開発要員を使って突拍子もないアイデアを思いつき(プラチナ製のクラッカー販売など)、現実的な問題(塩をどうやってまぶすのかなど)はアイデアゴラに任せる。もちろん、このアプローチには研究開発(に匹敵するほかの)予算が削減できるといううれしい効果も考えられる。

 

究極として、Don Tapscott 氏は問題とソリューション(特許)の両方を提出して一般から評価を受けたり利用されたりする eBay のような市場をイメージしている。同氏の頭のなかでは、このような市場がこれまでにない速度で革新を推進するというのだ。筆者にも、それはおそらく本当だと思える。

 

ただ、アイデアゴラにはちょっとした問題が1つある(これは明らかにしておくべきだと思う)。それは、問題を特定することで特定のソリューションがあらかじめ決まってしまうことだ。つまり、塩を固着させるのは(一般には)難しい材料科学の問題だが、化学の問題として考え直すと、簡単な場合がある。残念なことに、この問題をアイデアゴラに投稿するときは、これを「Materials Science (材料科学)」に分類しなくてはならず、これが化学者の目にとまらない可能性もある、

 

いずれにせよ、アイデアゴラは革新への強力な新しいアプローチを表しているように思える。そして、もし興味があれば、Wikinomics を買って詳しく読んでいただきたい。そうしないのは神々に対する不遜である。



アクセンチュア・テクノロジー・ラボ(アメリカのパロアルト、シカゴ、フランスのソフィア・アンティポリス、インドのバンガローの4箇所にラボがある)の「Visual Shelf Monitoring」システムは、防犯カメラと高度に洗練されたオブジェクト認識技術を使って商品棚のプロダクトプレースメントを監視する。品切れを検知すると(たとえばギネスビールが切れた、といった悲劇的な事態が発生すると)、自動的に警告が出て店舗が即座に対処できるようになり、場合によっては売上を伸ばすこともできる。

 

この技術のもう1つのメリットが棚割り機能だ。棚割りは、ギネスビールには棚の縦一列を用意し、バドワイザービールには三列を用意するといった、メーカーが指定した製品の店頭配置を指す。棚割りが良ければ売上が伸び、マージンも増える。

 

通例、棚割りは当該メーカーの関係者が時々店舗に来てチェックする。だが、この Visual Shelf Monitoring システムでは、このチェックを継続的に行うことができるため、在庫係が商品の配置を間違えても、メーカーと小売業者の双方がすぐに助言して小売業者が間違った商品配置を正すことができる。

 

だから? 

 

棚割りは重要だ。メーカーは自らコストを負担して小売業者にこれらを実行させ、それに従っていない場合は激怒することもある。Visual Shelf Monitoring は、棚割りルールを確実に守る自動化機能を実現することで、メーカーが怒ることなく、リラックスでいられるよう支援する。

 

品切れは破滅を意味する。品切れは、棚スペースの活用不十分、未整理、そして売上放棄を意味する。目視で確認するのは経済的でない。ウォルマートなどでは、店員総動員で目と首をキョロキョロさせながら永遠に店内を歩き回らなくてはならない(安心できる光景でもない)。もう1つの可能性として、陳列時に商品を数え、購入時にも再度数えるというのもミスが発生しやすいし、コストもかかる。

 

何とも良いことに、Visual Shelf Monitoring は店頭在庫管理者にとって本当に革命的で、比類なく効率的なアプローチだ。さらに詳しい情報は、アクセンチュア・テクノロジー・ラボ(フランスのソフィア・アンティポリス)の Erick Meunier までお問い合わせいただきたい。この分野の第一人者の1人だ。


私の世代考 (2007年12月06日)

アクセンチュア・テクノロジー・ラボは先ごろ、かつてないほどの勢いで職場に浸透しつつあるジェネレーション Y (団塊ジュニア)に関する規模の小さい簡単な社内説明会を行った。団塊ジュニアは、1960年代や1970年代のヒッピー世代と同じように見られることがある。彼らは特に、上下関係に対する我慢がなく、命令に従うのが苦手で、一般社会規範に従わず、お金では動かないと見られている。もちろん、Dave Barry※ はかつて、ヒッピーが大切にする価値は最終的に「愛車の BMW を運転して自分が勤める証券会社に出勤する際に聴くラジオ局に大きな影響を与える」と語ったことがある。したがって、われわれはこの評価を話半分に聞く必要があるかもしれない。だが問題は、団塊ジュニアがそれでも職場に大きな影響を与えるかどうかだ。われわれは、そこには1つの方向性があると判断した。

だから? 

団塊ジュニアの価値観で職場が変化することはない。ただ。彼らのツールで変化することはある。特に、ソーシャルネットワーキングツールだ。さて、もしあなたが筆者と同じ人種なら、MySpace、FaceBook、そして LinkedIn の話で耳が死ぬほど痛いだろう。しかし、これらが次々登場する一因は、これらが重要だからだ(ほかに、これがメディアの祭り上げた大騒ぎのまっただ中にあるからという理由もあるが、そこには今は踏み込まない)。

これらのツールが重要である具体的理由が「弱い紐帯(weak tie)」だ。筆者はかつて、メンバー同士がお互いを実際には「知らない」し、実際に知ろうともしない混乱したたまり場(奥行きがないという意味で)の関係だとし、MySpace を軽蔑していた。だがその後、弱い紐帯について知るようになった。これは知人との関係を表す人類学の概念で、親族や友人との間にある「強い紐帯(strong tie)」と対比をなしている。強い紐帯を持つ人とは主に知識、信条、言語、そして姿勢を共有し、コミュニケーションも容易にとることができる。一方で、弱い紐帯を持つ人とはそれができない。

では、弱い紐帯(知人)を持つ意味とは何だろうか? それは、突然にソリューションが出てくるのが(あなたの知らないことをたくさん知っている)知人だからだ。また、新しいコネクションができるのも(あなたの知らない人をたくさん知っている)彼らだからだ。したがって、求職活動中などは知人がきわめて重要になる。実際、職を探しているときは、10人の弱い紐帯の方が10人の強い紐帯よりもはるかに好結果につながる。

つまり、団塊ジュニアが職場に持ち込む最も重要な資産が、彼らの Facebook アカウントなのだ。これは膨大な数の知人が集められた「名刺整理帳」で、これは経営トップのそれよりも数が多く、バラエティーに富んでおり、整理されているはずだ。企業はこのアドレス帳を大切に育てることが賢明だ。つまり、社員には FaceBook で「遊ばせておく」ことである。それが、新しい顧客や新規採用につながっていくからだ。

好むと好まざるにかかわらず、これは就職希望者の豊富な情報源にもなる。数百もの弱い紐帯を持つ団塊ジュニア世代は、前の世代よりも簡単に会社を辞めるようになるからだ (そう、良いことばかりだとは言っていない)。この新しい時代に向け、上下関係を排除し、命令するのではなく漠然とした忠告を与え、ロビーにはフラッシュライトや配管のような何かとがった室内装飾を施すなど、基本的な予防措置を執っておくべきだ。用心して悪いことはない。

 ※Dave Barry:アメリカのユーモア・コラムニスト。米マイアミ・ヘラルド紙などに寄稿するコラムニストで、ピューリッツァー賞も受賞した。


ピアプロダクション (2007年12月05日)

今回は、ピアプロダクションに着目しながら「Wikinomics: How Mass Collaboration Changes Everything」(Don Tapscott 氏共著)の分析を続ける。Wikinomics (ウィキ経済)においては、(理想的には対価を求めず)人々が自発的に集まってコンテンツの制作を開始するとピアプロダクションが発生する。最も大規模で最も有名なピアプロダクションの例はおそらく Wikipedia だが、大成功を収めるオープンソース OS の Linux も僅差の2位で検討している (複数の人が同じドキュメントを使い、協力し合って作業を進められる環境が「Wiki」だ。Wikipedia は Wiki の1つだ)。
Don Tapscott 氏が Wikipedia について次のような話をしている。2005年7月7日のロンドン爆弾テロ発生直後には、(正直なところ多くはないが)当時判明していたことに関する項目が Wikipedia に登場した。1時間もしないうちに、数百人もの人がコンテンツを投稿し、調査を行い、編集を担当した。24時間後には2500人(そう、なんと2千5百人である)によって、報道番組や新聞が1回に伝えられる内容よりも総合的な14ページに及ぶ記事が完成した(実際、報道機関自らが基礎知識としてこの記事を利用するようになったのだ) 。

だから? 

2500人で14ページとは、驚くべき 「ページあたり頭脳」率であり、これこそ Wikipedia の最も感動的な特長だと筆者は思う。数十人を集め、電子メールやテキストエディタ、あるいはドキュメントの共有レポジトリを使って14ページもの首尾一貫した記事をまとめる作業など想像できるだろうか? それは筆者の想像も超える。にもかかわらず、Wikipedia はその作業を何度も繰り返し、今では190万件の共同編集記事を誇るまでになった。すべては、無償供与の知的能力の組み合わせと、1つの目標へと向かうすさまじい集中力のたまものだ。

なんという人々なのだろう? どのような動機があるのだろうか? どうやって時間を作っているのだろうか?  Don Tapscott 氏によると、彼らは主に熱烈なファンであり、「Wikipedia マニア」を自認しているという。これらの人々は書くことが大好きで、その多くが何度も執筆に携わり、さまざまな話題について書いている。また、特定の話題に熱心な人もいて、彼らは範囲を絞って執筆と保守を行っている。時間の作り方についてだが、人は何かに熱中すると時間を作るものだという。

ところで、Wikipedia ばかりがメディアに取り上げられるが、ネットにある公開 Wiki は Wikipedia だけではない。 こちらの Wiki 一覧 をご覧いただきたい。何十億もの人がネットを使っていながら、ここにリストされているサイトの数が少ない(100サイト未満)ことに驚くかもしれない。これは単に、Wikipedia ですべて間に合ってしまい、ほかには Wiki がほとんど必要ないからなのかもしれない。あるいは、成功する公開 Wiki の構築が思ったより難しいからなのかもしれない(以下参照)。また、あまりに規模が小さくて Wikipedia の目にとまらない Wiki が数百万もあるのかもしれない。

(たぶん興味がおありだと思うが)筆者が集団の力を利用して自社のメリットになるコンテンツを制作することは可能だろうか?  もしかしたら可能かもしれない。公開 Wiki の現象が抱える問題は、勝者のことしか分からない点だ。コンテンツがいつまでも埋まらない敗者の Wiki がメディアに取り上げられることはほとんどない。敗者の数を判断するのは難しいが、オープンソース活動がヒントになるかもしれない。1つの大成功(Linux など)の影には、活気がなく忘れられた多数のオープンソースプロジェクトがあるのだ。通常は、「オープンソースプロジェクトを立ち上げたから参加して人生を捧げて欲しい」と発表するだけでは不十分だ。ピアプロダクション活動を成功させる要素はほかにまだある。それは、何かまだわれわれが理解していないものだ。

しかし、(いつもそうだが)Don Tapscott 氏は正しい。自発的ピアプロダクションは機能さえすれば怖いくらいに強力だ。しかし、必要な参加者を集める(そして矛盾かもしれないが自発性を生み出す)には魔法が必要かもしれない。