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Webビジネス2003年11月25日 00:00

Web クリエーターのダブルスタンダード

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「未来世紀ブラジル」という1985年制作の SF 映画がある。 近未来のディストピア・管理社会を描いている作品だが、 監督テリー・ギリアムのテイストが炸裂しており、 また、ストーリーが複雑に入り組んでいるためか、 好きな人はものすごく好き、 そうでない人にとっては意味不明と、 評価が分かれる作品である。 そのカルト的な性格ゆえか、 日本では長らく DVD 化されていなかったが、 先週ようやく DVD リリースされた。

「未来世紀ブラジル」の主人公は、 管理社会に生きる夢見がちな小役人で、 小さな偶然による人違い事故により、 悲劇に巻き込まれてしまうわけだが、 詳しいストーリーについては実際に作品を見てもらうことにして、 主人公の友人、死刑執行人に焦点を当ててみる。

彼は拷問・死刑執行という自分の仕事を行う際には異様な仮面を被っている(その仮面がおたふくというか幼児というか……などという細部のイメージの作りこみこそが、 ファンに好かれる理由のひとつであるのだが)。 素顔のときは普通の人間である。 刑を執行する際に「こういう立場に追いやられた俺の気持ちもわかってくれ」と、 仮面をはずして言ってしまうシーンもあったりするような人間くささを持っている。

ここで Web 制作の経験がある方々に質問したい。 Web 制作途上、 執行人の彼のような気持ちになることがないだろうか?  Web 制作を行っている人間は、通常、 自らが Web ユーザーでもある。 Web のエキスパートとして、 そうではない人より見ている Web サイトの数も多い。 基本的にインターネットに接続している時間も長いだろう。 端的に言って Web サイトへの目が肥えている(はずである)。 彼のような気持ちとは、 このような背景を持った人間が、 Web サイトを制作する際に感じるジレンマのことを指している。

つまり、 個人として「自分ならこのサイトは使わないだろう」 「このサイトには魅力がない」と内心思いつつ、 何らかのあきらめにより Web サイトを制作してしまうことである。 ユーザーとしての自分とプロフェッショナルな Web 制作者としての自分が乖離している、と言ってもよい。

注意してほしいのだが、 たとえばデザイナーならデザイナー個人の趣味の延長での、 企業 Web サイト受託制作をここでは想定していない。 あくまで企業のブランディングを考慮し、 ターゲットユーザーに向けた有効なメッセージとして機能する Web サイトの制作を、 プロフェッショナルとして行うことを想定しているのでお間違えなきよう。

Web サイト制作はプロジェクトであり、 利害関係の異なる多数の関係者をとりまとめて制作を行っていくものである。 デザイナーとプログラマーの意見が違うことは珍しくないし、 Web 制作を依頼したクライアント側も、 部門により意見を異にするケースも多い。 制作途上で意見が変わってきたりもする。 与えられた条件の中で最上のものを目指し、 真剣に制作をすればするほど、 意見の衝突や認識の違いも起こってくる。 これらをとりまとめ、 調整しながら Web 制作をプロジェクトとして動かしていく。

が、その過程のどこかで、 自宅に戻れば日々 Web のブラウズを楽しんでおり、 Web サイトを判断する何らかの価値基準と審美眼を持っていたはずの自分を殺してしまうようなことが発生する。 「プロジェクトのために」という仮面で素顔を覆って、 本音を飲み込んでしまう。

これがナイーブな意見という向きもあろう。 「大人なんだからね」「お金をいただいているんだからね」 「そこは割り切って」と言われることもままあるだろう。 また、Web 制作者は Web のヘビーユーザーなので、 制作するサイトのターゲットとしては単一のセグメントに過ぎず、 その意見だけを過大視しすぎると、 Web を日ごろそれほど使わないユーザーに向けた情報設計とは方向がずれてしまう、 という危険についても考慮しなくてはならない。

しかし、それでも、と主張したいのである。 自分がユーザーとしてブラウズした際にどうかと思うサイトを作るのはおかしくないか、と。 ユーザーとしての基準と制作者としての基準を別に持つ、 ダブルスタンダードはやめようよ、と。

くどいようだが、 異なる意見を調整して妥協点を見出すことに反対しているのではない。 自分の趣味とクライアントが良しとする趣味の違いをうんぬんしているわけでもない。言いたいのは、 クライアントの都合により、納期の都合により、予算の都合により、 すなわち諸条件の都合により、 自分が納得できる最低限のクォリティのものを制作しなかったとしたら、 自分を含めたユーザーに対して大変失礼ではないかということだ。 制作者のアイデンティティとして、 仮面ごしからだけではなく、 仮面をはいだ素顔からも、 自分の持てる力量と最大限の努力で、 クォリティを引き上げることを目指さなくてはならない。

皮肉なことだが、Web 制作では、 プロジェクトマネジメントのためにクリエイティビティが殺されてしまうケースが多い一方、 「未来世紀ブラジル」のテリー・ギリアムは、 近年、クリエイティビティのためにプロジェクトマネジメント(諸々の問題発生によるため、リスクマネージメントと言った方が正しいかもしれないが)に失敗しており、 完成作に恵まれない監督である。 傑作を生むため、 そしてプロジェクトとして成功するためには、 マネジメント力とクリエイティビティ、いずれもが必要とされるのである。

記事提供:ファンサイド

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