Webビジネス2004年1月30日 00:00
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「35円から9円」で値上げ? - オーバーチュアのスポンサードサーチ広告

この記事のURLhttp://japan.internet.com/busnews/20040130/8.html
著者:細木康裕
国内internet.com発の記事
PPC(Pay Per Click = キーワード連動型クリック課金)広告の一つであるオーバチュア社のスポンサードサーチ広告が、クリック単価の入札最低価格を一部のカテゴリで従来の35円から9円に値下げしました(2004年1月26日実施)。

短期的に見ると入札者である広告主にとって嬉しい知らせですが、中長期的に見ると必ずしも全ての広告主にとって好ましいとは限りません。現時点でも PPC 広告のクリック単価は上昇傾向にありますが、今回のスポンサードサーチ広告における入札最低価格の引き下げが、クリック単価の値上がりをさらに加速させる可能性があるからです。

以下、この仮説をご説明したいと思います。

■オークション制度と消費者余剰

PPC 広告でキーワードに入札する代わりに、3個のリンゴをオークションで買うケースを想定してみましょう。

例えば下記のような4人の入札があったとします。

A:100円
B: 80円
C: 60円
D: 40円

Aさんはリンゴ1個を100円で購入し、以下Bさんが80円、Cさんが60円で、Dさんはリンゴを買えないという結果になります(図1)。



ここではオークション制度が採用されているので、Aさん、Bさん、およびCさんがそれぞれ異なる金額を支払っている点に注目して下さい。

自由競争市場が形成されていれば、教科書で習ったような需要曲線と供給曲線を描くことができ、それが交わる点が価格となります。例えば、図2では50円がリンゴ1個の価格です。



本来なら50円で買うことのできたリンゴを、例えばAさんは倍の100円で買っています。図3の赤い部分がこの差額(経済学では「消費者余剰」と呼びます)に該当し、Aさんは50円、Bさんは30円、Cさんは10円を上乗せして売り手に支払う結果となっています。



独占や寡占(かせん)状態で売り手側が有利な場合、このように買い手側が高い価格で商品を買わざるを得ない状況が存在します。

■機会損失の回避

さて、今回のスポンサードサーチ広告におけるクリック単価の入札最低価格の値下げを考えて見ましょう。

従来は、入札最低価格は一律35円でした。この35円が高いか安いかは、広告対象となる商品やサービスの特性によって異なります。一般に、顧客単価が低い、利益率が低い、あるいはコンバージョン率が低い商品やサービス等では、採算が合うクリック単価は低くなります。

ここでミカンを3個売っているケースを考えて見ます。

例えば図4のように、ミカンを買いたい人が4人いたとして、入札最低価格が35円であればHさんがミカンを1個買うことができるだけです。残りの3人は入札最低価格に満たないためミカンを買うことができません。



これをミカンの売り手側から見ると、1個は40円で売れたものの残りの2個は売れ残りとなってしまいます。ミカンは生鮮食料品ですから売り損ないはミカンを無駄に腐らせてしまうことになります。

ここで入札最低価格を9円に下げれば、4人全員が入札に参加し、その結果、Hさん、Iさん、およびJさんの3人がミカンを購入できます(図5)。



その結果、売り手は残り2つのミカンを販売する機会損失を回避でき、IさんとJさんの2人も無事にミカンを買うことができました。

■入札価格の上昇

ここまでの話であれば、売り手と買い手の双方に利益があり好ましい話です。

ところが、話はこれだけでは終わりません。

「ミカンの入札最低価格が9円になった」という噂を聞いて、LさんやMさん等といった新しい登場人物が参加します。例えばMさんは、ミカンを買えなかったとしても「せっかく市場(いちば)まで来たのだからリンゴでもお土産にするか」と考えてリンゴのオークションに参加するかもしれません。

入札最低価格の値下げでミカンを買うことができたIさんは「ついでにリンゴも欲しいな」と考え、115円で入札するとしましょう。

その結果、例えばリンゴのオークションでは図6のような入札結果が考えられます。



オークション制度を採用しているため、リンゴの売り手は、Iさん、Aさん、およびBさんにそれぞれの入札額で販売します。この時点で売り手側は55円(一番手と四番手の差額)の売り上げ増加となります。

さらに、ここでMさんがどうしてもリンゴが欲しければ81円で入札をする可能性があります。入札額を抜かれたBさんは82円に増額するかもしれません。そのようにして、入札額は上昇して行きます。

■結論

リンゴやミカンという単純な例で説明をしましたが、スポンサードサーチ広告の入札最低価格が値下げされたケースでも根本的な原理は共通です。特に入札最低価格が、幾つかの制約があるものの、9円に値下げされたというインパクトは非常に大きなものがあります。

私の経験から言うと、入札最低価格と実勢価格(落札額)を混同しているケースは少なくありません。つまり、「入札最低価格は Google 社のアドワーズ広告は7円、スポンサードサーチ広告は35円」という事実を、単純に「アドワーズ広告の方がスポンサードサーチ広告よりも安い」と錯誤している人が多く存在します。

ここで「スポンサードサーチ広告の入札最低価格は9円」(実際には幾つかの制約あり)という情報が伝播すれば、「入札最低価格が9円なら俺も欲しい」というLさんやMさんのような人々が新たに広告主として参加することになります。推測の域を出ませんが、これらの新規参入者の数は決して少なくないように思われます。

裾野が広ければ広いほど山が高いように、参加者が多ければ多いほど落札価格も高くなります。以上のように、今回の入札最低価格の引き下げによって、スポンサードサーチ広告におけるクリック単価は中長期的に上昇していくと考えられるのです。

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