在宅勤務の神話
筆者は完全な偽善者である。筆者はそれを実感することに苦痛を感じているが、何年間も在宅勤務主義を唱えてきた筆者は、自分がイメージした IT 系会社員にとって理想の在宅勤務環境と現実が異なることに気付きつつある。
在宅勤務中の読者はきっと筆者の意見など気にしないだろうし、もっと前向きな異なる意見もあるかもしれない。しかし、フレックス勤務形態を推奨する最近の受けの良い報道を見ていると、筆者としては逆の視点も持つべきだと感じる。 在宅勤務に関してこのような結論に達した経緯を多少なりとも説明するため、ここで少し過去を振り返ってみよう。 まず最初に、筆者から質問させていただきたい。あなたはこれまで、IT 系会社員の生活向上に向けた(在宅勤務などの)持論を CIO や CEO にメールで提案したことがあるだろうか。多少危険な匂いがする行動だ。もし主張が気に入られればヒーローになれるかもしれない。だが、もし気に入られなければ、荷物をまとめて職場を出ていくことになりかねない。最悪の場合、会社から何の回答もなく、自分が人事のブラックリスト入りしているのではとの疑念を抱きながら過ごすことになる可能性もある。 実際、筆者は新卒で入社したコンサルティング会社の CEO にそのような電子メールを送信したことがある。筆者は在宅勤務の選択肢拡大の真剣な検討を求めた。そして、この CEO は筆者に返信をくれた。それは、経営トップは社員のモラルと生産性向上のための方法を常に検討している、といった内容だった。 そして何と筆者は、その電子メール送信後に在宅勤務を増やしてもらった。ただ、ちょっとした問題が発生した。在宅勤務ができるのは、一日中オフィスで仕事をし、1時間電車に揺られて自宅に着いてから深夜までの間だけだったのだ。 これでワンストライクとられた。 しかし、筆者はめげなかった。なにしろ、それでも会社で徹夜するよりは良かったからだ。そこで、次に勤務した大手保険会社では、CIO に同様の電子メールを送信した。筆者は在宅勤務を含め、待機サポートスタッフの勤務時間のフレックス化を求めたのだ。この CIO は、筆者と実際に会って話もしてくれた。 (教訓:幹部に電子メールで提案することをちゅうちょすることはない。筆者が見たところ、大半の人はそのようなことをしないが、有益な意見を持って行動に出れば、反応は一般に前向きなものになる。心配は無用だ。上層部をバカ呼ばわりするようなことでもない限り、解雇される可能性は低い) 脱線してしまったが、話を在宅勤務の話に戻すと、筆者がその CIO と直接会うと、彼は、待機スタッフがポケベル(携帯電話は当時まだ存在していなかった。もしこれがあったら筆者は CIO にインスタントメッセージでコンタクトを取っていただろう)を持ち歩かなくても常時連絡が取れるようにするためのプランを作成するよう求めてきた。 筆者がプランを作成し、これを渡して検討してもらった結果、トップはグループ全体をアウトソーシングしてしまった。何と、インドで在宅勤務をしろというのだ。何とも気の滅入る結末である。 これでツーストライク取られた。 筆者はその後、サポートチームのマネジャーとなった。ついにホームランが飛び出したというわけだ。そうだろう? 筆者は、自分の部下をフレックスタイムの模範にすることでフレックスタイムと在宅勤務を支持できるのだ。 偽善者を強く実感したのはこのときだ。 最初は、何もかも申し分なかった。一部のスタッフは、1週間に数日の在宅勤務を選択した。また、出勤時間を遅らせ、退社時間を早めるスタッフもいた。勤務時間中に用事ができても、オフィスを離れて好きな時間に戻ることができた。 そして、仕事も片付いていた。少なくとも、そのようには見えた。だが、そこから徐々に問題が浮き彫りになってきた。 まず最初に、顧客がサポート窓口に電話をしてくると、営業時間中にもかかわらず留守番電話になってしまった。これは起こってはならないことだった。さらに悪いことに、1時間以上も折り返しの電話がなかった(ちなみに、Service Level Agreement には15分のレスポンスタイムが記されていた)。結局分かったのは、サポートエンジニアが所用で出かけていて、電話を自分の携帯はもちろん、同僚にも転送するのを忘れていたというのだ。 そして2番目に、全員出席のミーティングの設定が難しくなった。朝や夕方にミーティングを予定すると、出席率があまりよくなかった。朝といっても午前9時ではなく10時30分といった程度なのに、半分が欠席するのだ。しかし、大半が電話を入れてくるため「問題ないだろう?」という話になる。 対話がなく、 コミュニケーションがうまく取れないことも頻繁にあるなど、ミーティングは収穫がない。率直なところ、携帯の電波の悪い相手とスピーカーで通話すると何度も聞き返さなくてはならず非生産的だった。携帯電話のコマーシャルとは裏腹に、「これなら聞こえる?」と怒鳴ってもよいことは何もない。 3番目として、仕事は過不足がない程度に進んでいた。特に作業時間を増やすようなこともなかった。おそらくは8時間も働いていなかっただろう。筆者はかつて、スケジュールを調整できれば生産性は向上すると主張していた。だが筆者は、それが大半にとっては間違っていたことに気付いた。甘い顔をするとすぐにつけ込まれるのだ。 最後に、チームの結束力と活気も消えかけていた。懸命に働く人には、同僚は同じように働いていないのではないか、という不信が生まれた。見かけない人は手を抜いているのだと見られた。 チームの優秀なメンバーは欲求不満から会社を離れ始め、怠け者の在宅勤務者だけが残り、生産性は急降下し、われわれのサポートに対する顧客満足度も下がった。 朗報なのは、これらの結果を改善する管理手法が存在することだ。しかし筆者は、IT 業界の大部分には生産性、責任ある在宅勤務、およびフレックスタイムの効果的管理は期待できない、との結論に達した。 ヤジや不満の声が聞こえてきそうなので、ここで1つ明確にしておきたい。 家族と過ごす時間を増やすこと、二酸化炭素排出量を減らすこと(何しろ「グリーン」は大流行中だ)、そして通勤によるストレスを緩和することのメリットだけでは、これらの在宅勤務プログラムを承認できない、と言っている訳ではない。筆者は、地理的に離れた小規模チームが在宅勤務で成功した事例も確かに見たことがある。筆者が言いたいのは、大半の人は柔軟な環境に容易に適応して生産性を上げられる、と当然のように考えるべきでないということだ。 筆者の最初の挑戦はまったくうまくいかなかった。したがって、スリーストライクで、結果は三振だ。 関連記事 関連テーマ 最新トップニュース
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