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中国の3G データ通信事情
今回は中国の3G のモバイルデータ通信の料金モデルについて触れることにします。
世界ではスマートフォンの普及によって3G の回線がパンク状態になっており、アメリカやイギリス、香港など世界各地で相次いでキャリアが定額制の料金制度の新規受付を停止しています。キャリア側からみると、どれだけネットワークを強化してもそれを上回って通信量が増えており、これからさらにスマートフォンの普及が進めば定額制のモデルでは採算がとれないという背景があります。
これらの国や地域では、スマートフォンの登場の際にデータ通信の定額制モデルを組み合わせて展開し、その後になって、やはり定額制のモデルは採算が厳しいということから方向転換をしてきました。しかし、中国の各キャリアはそもそも3G のデータ通信に定額制を投入せず、むしろ世界の流れが従量制になってきていることから、そもそも「定額制」を経験していません。そして恐らくは、このまま従量制のモデルのみで進み続けるでしょう。
こうなると、中国のモバイル市場でのサービス展開においては、「将来においても3G のデータ通信は従量制」という前提で取り組む必要があります。既に無線 LAN にオフロードする前提のサービス設計をしているアプリやサービスもありますし、極力データ通信によるパケットのやり取りを減らすことは中国のアプリ設計の暗黙的な了解になっています。
このような事情は日本から見るとなかなか分かりにくいことから、本稿では、その背景を含めて整理してみましょう。
中国の3G のライセンスは2009年に通信キャリア3社へ正式に発行され、中国移動(China Mobile)が TD-SCDMA、中国電信(China Telecom)が CDMA2000、中国聯通(China Unicom)が W-CDMA のライセンスをそれぞれ保有しています。3つの方式をそれぞれ割り当てるに際し、中国政府はその前年の2008年には通信キャリア6社を整理し、これら3社に集約させました。過去には中国移動のトップが中国電信のトップに異動したり、中国聯通のトップが中国異動のトップに異動したりするなど、これら3社は見た目には競争関係はありますが、経営にはかなり中国政府の意向が反映されているといわれています。
3G の通信サービスは、2008年に実験的に一部の都市で始まり、今では中国の主要な都市部ではカバーされています(正確には、カバーされていることになっています、という状況です。記事では書きにくいものの、少し郊外に出るとキャリアによっては特定のエリアが抜け落ちていると分かるところもあります)。
そして、主題である3G のデータ通信の通信料の設定です。繰り返しになりますが、中国では定額制の3G の通信プランは無いため、自分の利用シーンにあわせた月額基本料のプランを選ぶことになります。さらに、中国では地域会社ごとにプランが異なることや、キャンペーンを展開していることがあるため、一概に「中国の」と説明することはできません。法人契約だと Web サイトには出ていないプランを利用することもできます。筆者の会社は北京ベースのため、ここでは北京における各社の代表的なプランを見てみます(情報は2012年3月現在で各社が公開している内容に基づいています。また、各社は細かくプランが設定されていますが、ここでは代表的なプランのみ記載しています)。
まず中国移動は「88套餐 G3版」というサービスで、月額88元のプランだと1か月あたり音声200分にデータ通信が500MB 含まれています。本稿はデータ通信にのみ絞っていますので、その点に限ってみると、500MB を超えた部分は1元/1MB で追加課金されます。月額288元のプランになれば1GB 分が含まれますので、明らかに多く使うことが分かっている人はこちらを契約した方が得になる計算です。
中国電信の3Gプランの場合、月額189元で1GB までのデータ通信が含まれており、超えると0.0003元/1KB で追加課金されます。分かりにくいのですが、大まかにいえば1MB あたり0.3元程度です。(これとは別に、データ量を減らし、通話時間が多いプランもあります)
中国聯通の場合、月額226元で750MB、286元で950MBが含まれるプランがあり、中国電信と同様に、超えた場合には0.0003元/1KBでの追加課金です。最低では月額46元(約600円)で150MBを含むプランがあります。
ちなみに筆者の場合、3G 経由の受信・送信量を合計すると iPhone の統計によれば1日あたり平均して40MB で、1か月では1.2GB 相当となります。用途はメール、Facebook、Twitter などです。比較する対象が IT 業界にいる人ばかりなので適切な材料にはなりえないかもしれませんが、日本にいても中国にいてもあまり差はありません。意識的に WiFi にオフロードしていますが、これを中国聯通のプランにあてはめてみると月額386元(直近の為替レートで約5,000円)で1.3GB が含まれるというプランに相当します。
このような通信料の相場をまず頭に入れた上で、それでは中国の市場で、一般ユーザが収入に対して通信料に支出する金額がどうなるのかという点を考えると、ここに毎月300元も500元も払うユーザが多いわけではありません。実際、2G も含めて全土でならすと ARPU(1か月のユーザあたり利用料)は、中国聯通や中国移動は50元前後です。都市部の給与水準は上がり続けており、通信費への支出割合も上がる傾向にあるとはいえ、中国全体で見れば、このように3G のデータ量が多いプランを選ぶ人の比率が高いとは言い難いでしょう。即ち、3G 経由でのデータ通信を大量に行うアプリやサービスは、現時点では広くは歓迎されにくいと指摘できます。
では、なぜ3G のデータ通信が定額制にならなくても3G の一定の普及をみてきたかといえば、その主な理由の一つには、やはりパケット通信コストが低廉であることが挙げられそうです。中国移動や中国聯通の場合、1MB あたりで4円弱であることに対して、NTT ドコモでパケット定額のプランに入らなかった場合、1パケット(128バイト)で0.21円のため、1MB あたりで1,720円の計算になります(一定の流量までは固定で、そこから上限なしというプランが日本の主要4社には無いため比較の材料としては若干不適切です)。ユーザからすると、上限無しという状態は怖いものの、日本のように口座振替やクレジットカードで使った分が引き落とされるという支払方法より、プリペイドカードを使っていたり、Web で100元・200元という単位で補充していたりするケースが圧倒的に多いため、実質的に上限設定が行われているかたちになります(残高が足りなくなれば使えなくなります)。このような背景があるため、ユーザはいわゆる「パケット代の節約」に慣れることになり、それぞれの支出可能な額の範囲でコントロールすることがうまく習慣化していると言えるでしょう。
今後、当面のあいだにおいて、筆者は中国の通信キャリア3社があえて定額制のモデルを出す可能性は無いと考えています。仮にあった場合でも、様々な制限を加えた限定的なサービスになるでしょう。その理由としては、まず冒頭に触れたようにキャリア同士の本格的な競争が起きる環境にはないこと、中国は定額制を経験しておらずユーザの利用形態が従量制で十分に慣れていること、現行プランがある状況で定額制を導入するとさらに収入の減少に繋がりかねないこと、などが挙げられます。本稿ではあまり触れませんでしたが、各キャリアは WiFi サービスを強化しており、現状でも通信設備の負荷は高く、さらにオフロードする必要性に迫られています。
一方、たとえば日本企業が中国での3G 向けモバイルサービスを検討するとなった場合、こうした定額制のプランが無い状況を踏まえる必要があります。アプリやゲームの設計においてどの程度端末との間で通信を行うか、あるいはそもそも通信型のアプリ設計にするか、ダウンロード型のアプリ設計にするか、などの検討課題が生まれるでしょう。また写真や音声、動画などの取り扱いにおいても、極力そのデータサイズを小さくして通信する仕組みが考えられます。定額制の通信になれてしまった日本の我々にとって、中国での展開においてはその3G のデータ通信事情をよく理解した展開が求められています。
(執筆:株式会社クララオンライン 家本賢太郎)
世界ではスマートフォンの普及によって3G の回線がパンク状態になっており、アメリカやイギリス、香港など世界各地で相次いでキャリアが定額制の料金制度の新規受付を停止しています。キャリア側からみると、どれだけネットワークを強化してもそれを上回って通信量が増えており、これからさらにスマートフォンの普及が進めば定額制のモデルでは採算がとれないという背景があります。
これらの国や地域では、スマートフォンの登場の際にデータ通信の定額制モデルを組み合わせて展開し、その後になって、やはり定額制のモデルは採算が厳しいということから方向転換をしてきました。しかし、中国の各キャリアはそもそも3G のデータ通信に定額制を投入せず、むしろ世界の流れが従量制になってきていることから、そもそも「定額制」を経験していません。そして恐らくは、このまま従量制のモデルのみで進み続けるでしょう。
こうなると、中国のモバイル市場でのサービス展開においては、「将来においても3G のデータ通信は従量制」という前提で取り組む必要があります。既に無線 LAN にオフロードする前提のサービス設計をしているアプリやサービスもありますし、極力データ通信によるパケットのやり取りを減らすことは中国のアプリ設計の暗黙的な了解になっています。
このような事情は日本から見るとなかなか分かりにくいことから、本稿では、その背景を含めて整理してみましょう。
中国の3G のライセンスは2009年に通信キャリア3社へ正式に発行され、中国移動(China Mobile)が TD-SCDMA、中国電信(China Telecom)が CDMA2000、中国聯通(China Unicom)が W-CDMA のライセンスをそれぞれ保有しています。3つの方式をそれぞれ割り当てるに際し、中国政府はその前年の2008年には通信キャリア6社を整理し、これら3社に集約させました。過去には中国移動のトップが中国電信のトップに異動したり、中国聯通のトップが中国異動のトップに異動したりするなど、これら3社は見た目には競争関係はありますが、経営にはかなり中国政府の意向が反映されているといわれています。
3G の通信サービスは、2008年に実験的に一部の都市で始まり、今では中国の主要な都市部ではカバーされています(正確には、カバーされていることになっています、という状況です。記事では書きにくいものの、少し郊外に出るとキャリアによっては特定のエリアが抜け落ちていると分かるところもあります)。
そして、主題である3G のデータ通信の通信料の設定です。繰り返しになりますが、中国では定額制の3G の通信プランは無いため、自分の利用シーンにあわせた月額基本料のプランを選ぶことになります。さらに、中国では地域会社ごとにプランが異なることや、キャンペーンを展開していることがあるため、一概に「中国の」と説明することはできません。法人契約だと Web サイトには出ていないプランを利用することもできます。筆者の会社は北京ベースのため、ここでは北京における各社の代表的なプランを見てみます(情報は2012年3月現在で各社が公開している内容に基づいています。また、各社は細かくプランが設定されていますが、ここでは代表的なプランのみ記載しています)。
まず中国移動は「88套餐 G3版」というサービスで、月額88元のプランだと1か月あたり音声200分にデータ通信が500MB 含まれています。本稿はデータ通信にのみ絞っていますので、その点に限ってみると、500MB を超えた部分は1元/1MB で追加課金されます。月額288元のプランになれば1GB 分が含まれますので、明らかに多く使うことが分かっている人はこちらを契約した方が得になる計算です。
中国電信の3Gプランの場合、月額189元で1GB までのデータ通信が含まれており、超えると0.0003元/1KB で追加課金されます。分かりにくいのですが、大まかにいえば1MB あたり0.3元程度です。(これとは別に、データ量を減らし、通話時間が多いプランもあります)
中国聯通の場合、月額226元で750MB、286元で950MBが含まれるプランがあり、中国電信と同様に、超えた場合には0.0003元/1KBでの追加課金です。最低では月額46元(約600円)で150MBを含むプランがあります。
ちなみに筆者の場合、3G 経由の受信・送信量を合計すると iPhone の統計によれば1日あたり平均して40MB で、1か月では1.2GB 相当となります。用途はメール、Facebook、Twitter などです。比較する対象が IT 業界にいる人ばかりなので適切な材料にはなりえないかもしれませんが、日本にいても中国にいてもあまり差はありません。意識的に WiFi にオフロードしていますが、これを中国聯通のプランにあてはめてみると月額386元(直近の為替レートで約5,000円)で1.3GB が含まれるというプランに相当します。
このような通信料の相場をまず頭に入れた上で、それでは中国の市場で、一般ユーザが収入に対して通信料に支出する金額がどうなるのかという点を考えると、ここに毎月300元も500元も払うユーザが多いわけではありません。実際、2G も含めて全土でならすと ARPU(1か月のユーザあたり利用料)は、中国聯通や中国移動は50元前後です。都市部の給与水準は上がり続けており、通信費への支出割合も上がる傾向にあるとはいえ、中国全体で見れば、このように3G のデータ量が多いプランを選ぶ人の比率が高いとは言い難いでしょう。即ち、3G 経由でのデータ通信を大量に行うアプリやサービスは、現時点では広くは歓迎されにくいと指摘できます。
では、なぜ3G のデータ通信が定額制にならなくても3G の一定の普及をみてきたかといえば、その主な理由の一つには、やはりパケット通信コストが低廉であることが挙げられそうです。中国移動や中国聯通の場合、1MB あたりで4円弱であることに対して、NTT ドコモでパケット定額のプランに入らなかった場合、1パケット(128バイト)で0.21円のため、1MB あたりで1,720円の計算になります(一定の流量までは固定で、そこから上限なしというプランが日本の主要4社には無いため比較の材料としては若干不適切です)。ユーザからすると、上限無しという状態は怖いものの、日本のように口座振替やクレジットカードで使った分が引き落とされるという支払方法より、プリペイドカードを使っていたり、Web で100元・200元という単位で補充していたりするケースが圧倒的に多いため、実質的に上限設定が行われているかたちになります(残高が足りなくなれば使えなくなります)。このような背景があるため、ユーザはいわゆる「パケット代の節約」に慣れることになり、それぞれの支出可能な額の範囲でコントロールすることがうまく習慣化していると言えるでしょう。
今後、当面のあいだにおいて、筆者は中国の通信キャリア3社があえて定額制のモデルを出す可能性は無いと考えています。仮にあった場合でも、様々な制限を加えた限定的なサービスになるでしょう。その理由としては、まず冒頭に触れたようにキャリア同士の本格的な競争が起きる環境にはないこと、中国は定額制を経験しておらずユーザの利用形態が従量制で十分に慣れていること、現行プランがある状況で定額制を導入するとさらに収入の減少に繋がりかねないこと、などが挙げられます。本稿ではあまり触れませんでしたが、各キャリアは WiFi サービスを強化しており、現状でも通信設備の負荷は高く、さらにオフロードする必要性に迫られています。
一方、たとえば日本企業が中国での3G 向けモバイルサービスを検討するとなった場合、こうした定額制のプランが無い状況を踏まえる必要があります。アプリやゲームの設計においてどの程度端末との間で通信を行うか、あるいはそもそも通信型のアプリ設計にするか、ダウンロード型のアプリ設計にするか、などの検討課題が生まれるでしょう。また写真や音声、動画などの取り扱いにおいても、極力そのデータサイズを小さくして通信する仕組みが考えられます。定額制の通信になれてしまった日本の我々にとって、中国での展開においてはその3G のデータ通信事情をよく理解した展開が求められています。
(執筆:株式会社クララオンライン 家本賢太郎)
記事提供:株式会社クララオンライン
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