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上司への不満とその対策 〜 経済評論家・山崎元のビジネス羅針盤

経済評論家 山崎 元
 
転職の実質的な動機で多いのは、現在務めている職場に対する不満だ。「職場には全く不満はなかったけれども、別の会社に誘われてみて、魅力的なチャレンジだなと思って、転職しました」というようなことを言う人は少なくないが(退職の挨拶としては及第点だ)、根底には現在の職場に対する不満があって、新しい職場を探したり、自ら探し始めないまでも、転職のチャンスに対するアンテナが高まったりする場合が多い。

職場に対する不満では、人間関係に関する不満が多い。そして、その中で最も多いのは、上司に対する不満だ。自分の上司に対する不満をどう解釈し、これにどう対処するかは、ビジネスパーソンにとって重要な「技能」だと思う。

● 上司の問題を考えるフレームワーク

上司に対する不満は、ある程度体系的に理解し、論理的に対処すべき問題だ。考えるべき主なポイントは以下の通り。

(1)現在の上司の存在は自分の「人材価値」にとってどのようなマイナスになっているか。
(2)上司と自分を「仕事力」で比較して、自分が勝っていると思うか。
(3)上司の会社における地位と人間関係。
(4)社内における上司と自分の異動の可能性。
(5)自分が転職しようと思った場合どんな可能性があるか。

幾つか基本的な前提を確認しよう。
先ず、ビジネスパーソンにとって上司は親や兄姉のような身内ではなく、「他人」であり、基本的には「顧客である他人」だ。上司は自分の評価者なのだから、彼を満足させることが、組織で働くビジネスパーソンの第一の仕事だ。上司は甘える相手ではないし、上司が部下である自分に対して何らかの責任(「部下の育成」とか)を持たなければならない存在だという認識を持つことは適当ではない。

次に、上司の「人間性」は変化しないと考えるべきだ。上司に限らず、大人になったビジネスパーソンの性格等の「人間性」を変えることは無理だ。何らかのアクションを起こして、上司に「やり方」を変えて貰うことは可能だが、上司の人間性は変わらない。

チェックポイントをご説明しよう。
まず、自分が不満を持つ対象である上司が、自分の人材価値に対してどのような影響を及ぼしているかを、冷静に(できれば、具体的な言葉にして)確認しよう。その上司の存在が、自分の社内的・社会的評価を下げたり、自分の仕事の能力成長の障害になっていたり、するのであれば、上司の問題は自分にとって「真の問題」だと認識しよう。

たとえば、無能な上司は、不愉快で、目障りで、仕事のモチベーションを下げる困った存在だと思えるかも知れないが、ある意味では満足させやすい顧客だし、自分が仕事をする上での障害にならなければ、放って置いていい。彼(彼女)が仕事をする上で大いに障害になるとか、彼(彼女)の下す評価がアンフェアだといった問題があったときに、はじめて具体的な対処が必要になる。

次に、自分と上司との力関係の把握が必要だ。人間的に、あるいは、もう少し狭い範囲で仕事の能力の上で、自分が勝てない上司との対立を表面化させた場合、たぶん部下は幸せになれない。

勝てない相手が上司であり、且つ、(1)のチェックで問題がある場合、自分か相手の異動を待つか、転職するか、が基本的な解決方法だ。

筆者は、企業の基本的な経営システムの考え方(いい点も、悪い点も含めて)を考える場合に、よくジャック・ウェルチ「ウィニング 勝利の経営」(日本経済新聞社)を参照するが(経営者の本音があけすけに書いてあるから)、ジャック・ウェルチのような自信家でも、上司の評価の不満を上司に問いただす際には、転職の準備をしてからの方がいいかも知れない、と言い添えている。

加えて、重要な条件として、上司の社内におけるパワーを知っておく必要がある。仕事のやり方を変えようとしても、上司にはそのパワーがないかも知れない。上司の行動を変えることで何を望んでいるのか、実現性を考えることが大事だ。また、自分との力関係の比較に於いて弱そうな上司でも、社内の関係(社長との人間関係が近いなど)を踏まえると、「実は強い」ケースがある。

上司の問題のもっともベーシックな解決方法は、お互いが離れることだ。お互いの異動のタイミング、可能性は考えて置く必要がある。人数の少ないベンチャー企業のような職場では、人事異動による問題解決はないので、そういう会社への入社にあたっては、職場の人間のチェックが重要になる。

また、自分の転職の実現性も考えなければならない。「異動」の可能性があるとしても、あまりに時間が掛かったり、不確実だったりする場合、時間を無駄にしないためには、自分が転職することが最善の解決策になる場合が多い。この種の転職を「逃げの転職」として批判する論者は多いが、現実を考えると、これがベストの解決策になる場合が少なくない。

考える順番をもう一度まとめると、「この上司は、本当に自分にとって問題か」、「上司にチャレンジ(不満を直接ぶつけること)できる状況か否か」、「お互いが離れる可能性とそれまでの時間はどうか」、「自分は転職した方がいいのではないか(それは、可能か?)」といった順番だ。

● 典型的な不満に対する対処法

複数のウェブサイトを見て、ビジネスパーソンが上司に持つ典型的な不満を幾つかピックアップしてみた。以下、考え方と対処法を述べる。

(1)「上司の指示・命令が不明確だ」

上司が何を指示しているのかが不明確だったり、指示の内容が後から変化したりする状況は非常にストレスフルだ。ただ、この場合、部下にも対処法がある。

第三者のいる場所で指示内容を改めて確認したり、メールを出して(証拠を残すためだ)指示を確認したり、指示の方法に改善を求めたりすることによって、上司との本格的な対立を招かずに問題が解決可能な場合がかなりある。

但し、この場合、上司の指示・命令が不明確である理由が、彼(彼女)のコミュニケーションの技術的拙さにあるのか、あるいは、責任回避にあるのかをしっかり把握しておく方がいい。前者なら、それほどしこりを残さずに事態を改善できるが(ある意味では、部下の側にも半分責任がある)、後者の場合は、自分の身を守るために神経を使わなければならない日々が続く。

(2)「上司を人として尊敬できない」

気持ちは分かるが、「人として尊敬できる上司を持ちたい」というのは昔も今も贅沢な望みだ。自分の仕事に差し支えなければ、上司が尊敬できようができまいが、基本的にどうでもいい。

次のような可能性も考えてみよう。
上司が「たいした人ではない」から、実は、満足させやすく、働きやすいのではないか。
或いは、出来の悪い上司だから、自分の仕事上の裁量範囲が大きくて、かえって自分にプラスになっているのではないか。

また、仕事上の勉強をしようとしなかったり、新しいものに興味関心を示さなかったりする上司に対して「向上心がない(から、尊敬できない)」といった不満を持つ部下は多い。しかし、ビジネスパーソンとしての残り時間が少ない高齢な上司の場合、部下と同じ勉強をしても、それを生かす機会(時間)が乏しいのだ。上司の不勉強には、それが合理的な場合も存在する。

一般論として継続的な勉強は、ビジネスパーソンが自分の人材価値を向上・維持するために必須の習慣であり、能力だ。それは、間違いない。ただし、これは、主として自分のためなのであって、上司にその習慣がないことは、「反面教師」的事例として観察対象にすれば済むことだ。

(3)「上司の人事評価がフェアでない。自分の好きな部下ばかりかわいがる」

人事評価上の問題は、実害につながりかねない、深刻な問題だ。但し、上司に対してこの問題の改善を求めることは、「あなたは、アンフェアな人間だ」と宣言することと同じ意味を持つので、相当の覚悟が必要だ。この点に関して、リスク意識が乏しいビジネスパーソンが少なくないので、注意したい。

解決策は三種類。
第一に、自分も好かれる社員になる。これが出来れば簡単だが、なかなか難しい場合が多いことは、筆者も実感を持って分かる。

第二に、上司に対するチャレンジ。これは、社内のパワー・バランスをよく見て、「上司の上司」からの理解を得たり、他の部署のマネージャーを味方に付けたり、といった下準備が必要な場合が多い。勝てないチャレンジをしてしまった場合、解決策は、第三番目しかない。

三番目の解決策は、お互いが離れることであり、我慢して異動を待つか転職するかの何れかだ。選択はケース・バイ・ケースだが、筆者の場合、「人生における時間の無駄」が嫌いなので、転職を選ぶことが多そうだ。

(4)「立場に見合った仕事をしていない」

これは、基本的に(2)のケースに近い。上司の肩書きや、収入を考えた場合、腹の立つケースは多いことが容易に想像できるが、「自分の人材価値にとってその上司がマイナスになっているか否か」で、問題であるかどうかを判断しよう。少し意地悪な言い方になるが、ダメ人間が上司になることができる会社は、将来の自分にとって好条件ないい会社かも知れない。

(5)「上にはへつらう、下には威張る。相手によって態度が違う」

おそらくは、能力の低い上司なので、幾つか対処法がある。
自分に対して威張らなければいい、ということであれば、先ず、仕事にあって自分の方が上司よりも能力が高いことを相手に印象づけた上で、「あなたが、私に威張らないなら、第三者の前で、あなたを上司として立ててあげよう」という意思表示をすると、彼(彼女)の態度は改まるはずだ。

また、社内における上司の立場が強くない場合、上司を異動させることが可能かも知れない。良し悪しは両面あるが、外資系企業の場合、部下の働きかけによって上司のクビが飛ぶことがしばしばある。

これらが出来ないのだとすると、部下の側の実力不足の公算が大きい。この場合は、「我慢」が最善の解決策かも知れない。

(6)「部下に対する責任感がない」

責任感が感じられない上司、というのは情けない存在だが、その原因を把握して問題に対処する必要がある。

一つは仕事上の責任を取らない上司であり、この場合は、(1)のケースのように、仕事の都度、彼(彼女)の指示に責任があることを確認する作業が必要になる。

もう一つのケースは、部下の育成に不熱心である等のケースだ。これは、上司の側では能力の問題だが、それ以上に、部下自身の問題だ。一人前のビジネスパーソンは、上司が「立派な上司」であることをアテにしてはいけない。

自分で勉強するなり、仕事の経験を積むなり、あるいは、転職するなり、自分の人材価値に対する投資を、上司に関わりなく、自分自身で行うべきだ。

(7)「上司とのコミュニケーションが乏しい」

これもかなりの程度、部下の側で対策可能だ。
部下の側からコミュニケーションを求められて不愉快に思う上司はごく少ない。挨拶するにせよ、食事や飲み会に誘うにせよ、部下の側から働きかけてみると、殆どの場合、問題は解決するはずだ。「部下とコミュニケーションを取ることは上司の責任だ」という建前に逃げ込んでいると、問題は解決しない。

(8)「セクハラ、パワハラに対する意識が低い」

具体的な問題がある場合には、我慢すべきではない。この場合に重要なのは、一にも二にも「記録」だ。

いつ何があったか、上司がいつ、どのような状況で、誰に何を言ったか(したか)、を日記のように記録しておこう。事実にもとづいた記録が溜まれば、それは、あなたにとっての力になる。これをどう使うかはあなた次第だ。逆に、十分な記録のない訴えは、失敗に終わる公算が大きい。

最後に一つ付け加えて置こう。「上司も人間だ」。

この言葉には二つ意味があり、「上司も人間だから、誠意をもってアプローチすれば案外分かってくれて問題が解決するものだ」、という意味と、「上司も人間なので、好き嫌いもあるし、嫌な思いをした部下のことは一生忘れない」という意味の両方だ。

どちらも、重要な教訓を含んでいる。自分の上司の名前を入れて「○○さんも、人間だ」と声に出してつぶやいてみてほしい。自分がどうしたらいいか、覚悟が決まるだろう。

【筆者紹介】
山崎 元(やまざき はじめ):経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員。58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。

※この記事は、リクルートエージェントのウェブサイト「ビジネス羅針盤」に掲載された内容をjapan.internet.com 編集部が再編集したものです。リクルートエージェントの転職支援サービスについては http://www.r-agent.co.jp/ をご覧ください。

 
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