大人の会社求人雑誌を見ると「若い社員たちが多く、活気ある」とか「平均年齢は20代!」といった、若さを強調するキャッチコピーが並んでいる。たしかに「会社が若い」と聞くと、風通しの良さ・新鮮さを連想させる面はあるだろう。しかし、若さ・勢いのある会社が、キャリアを磨けるところとは限るまい。
これまでマーケティングサービス会社で営業してきたSさん(26歳)は、「営業に大切なのはマメであること。それから、なにより明るさと元気!」と、ことあるごとに教え込まれてきた。 「やっぱり、営業は元気をアピールしなくちゃ」そう考えたSさんは、レジュメの最後には「体力・元気には自身があります」という一文を追加した。 Sさんは会社を辞めてから転職活動を始めたので、時間だけは有り余っていた。 「この際だから、いろいろな会社の面接に行こう」 Sさんはちょっとでも面白そうな会社に片っ端から応募書類を送り、ほどなくスケジュール帳は面接の予定で埋まっていった。 ある日、Sさんは二つの会社の一次面接を、午前と午後で受けることになった。 午前中に面接になったのは、外食サービスのA社。接客業をしているせいか、受付のところから、若い社員が「ようこそ!」と気さくに声をかけてきてくれる。社員も皆若く、実に活気がある会社だった。 ところが、午後に訪問した地図情報サービスB社は、雰囲気がいまひとつパッとしない。社内を歩いているのは、地味なグレーの背広をきた中高年の社員ばかり、午前中にやたらと元気のいいA社を見たせいかもしれないが、Sさんは面接が始まる前に、 「この会社に入社することはなさそうだ」と見切りをつけていた。 B社は採用担当者も、初老に差し掛かった感のあるベテラン社員。面接は、レジュメを見ながらの型通りの質疑で進んでいったが、Sさんの書いた自己アピールのところまでくると、面接官はニコリと笑ってこう尋ねてきた。 「体力に自信、ですか。羨ましいですね。でも、体力があれば、仕事ができるってことになるんですか?」 「え?」一瞬、言葉に詰まった後、Sさんは「やはりバリバリ仕事をしていきたいので、体力は必要だと思います」とこたえた。 「若いうちは、長時間働いて実績を出すこともできるでしょう。しかし、それをいつまで続けるつもりですか?雇う側は、一生面倒をみるつもりで採用します。体力がなくなったら仕事ができなくなる、では困るわけです」 「は、はい」 「弊社の営業には、年配のものもおりますが、みなお客様から大事にされています。彼らにはそれだけの価値を提供できるノウハウが身に付いているのです。 うちの営業はね、何度も足を運んだから、元気がいいからつき合って貰えるようなものではないんですよ。経験のある社員が頼られるところなのです」 Sさんは返す言葉が見つからなかった。 家に帰ってSさんは、面接した二つの会社について考えた。 「一見、A社は明るく元気がよくて、魅力的に見えた。でも、本当にB社の人事の人の言うとおりだ。これからビジネス界で30年以上、飯を食って行かなきゃいけないことを考えたら、元気だけじゃやっていけない。けれど、今日の様子じゃ、次の面接には進めないかもしれないな…」 自己アピールに「体力が取り柄」と書いたことを悔やんだSさんだったが、面接の結果はOK。「体力自慢」を批判された時、無理に言い繕ったりせず、素直に話を聞いた態度が評価されてのことだった。 その後の選考は、SさんがB社に対するモチベーションをグッと上げたこともあって、すいすいと内定まで進んでいった。 晴れて、B社に入社したSさん、学ぶことが山のようにあるものの、仕事は楽しくて仕方がないそうだ。 「無意味に歩き回るのが営業じゃない。暇ならお客様に良い情報提供が出来るよう、本を読め、ネットで資料を探せ、博識でなければうちではやっていけないぞ!」と諭され、「やっぱり、B社は大人の会社だ」と感激しているらしい。 ただ、やはり年齢ギャップを感じる場面も当然ある。Sさんが歓迎会で連れて行かれた店は、いかにも社用族が使っていそうな、しぶ〜い酒処だった。ちまちまとした魚介類の肴をつまみながら、Sさんは内心「唐揚げが食べたい」と思っていたという。飲み屋の趣味まで大人になるには、もう少し年月が必要のようである。 ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |