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孤独に強い男約5か月前のこと、生活用品販売A社から急ぎの求人が入った。新事業のため、核となる人材が欲しいというのだ。
アジアに新しい買付先を探していたA社は、ある小国に目を付け、支社をつくろうとしていた。ただ、立ち上げのために赴任できるのは、費用の都合でひとりだけ。まず白羽の矢がたったのは40代の管理職経験者。仕事は順調に進んでいたが、はじめての単身赴任で食生活が乱れ、働き過ぎが重なって体を壊してしまった。 次に若手のエース級が投入された。しかし、友人も身内もいない異国の生活は、予想以上のストレスだったようで、精神的にまいってしまい、本社に戻ることになった。 仕方なく、以前、新規事業の立ち上げに失敗したシニアスタッフを送り込むことにしたが、あまりに寂しい生活に加え、事前の説明不足もあって「リストラのための嫌がらせ」と勘違いされてしまい、すぐに退職。 こうしてA社は、海外で事業を立ち上げのための人員の採用に迫られたのである。 しかし、転職してすぐに海外赴任、それもたったひとりでというのは、かなり過酷な条件である。赴任先の国で実績・人脈があればベストなのだが、A社が進出を考えていたのは、これまで日本企業の進出があまりなかった地域、短期間で経験者を捜すのは困難だった。 となると、海外業務経験者で、立ち上げができるだけの経験があるキャリア中堅以上。しかも、すぐに入社できて、周囲に日本人がいない孤独な状況下で仕事ができる精神力が必要とされた。 募集を開始すると、若干名の応募があったが、みなA社が期待する仕事内容を聞くと、「それは厳しい」といって尻込みしてしまう。 結局、最後に残ったのはTさん(46歳)だけであった。 Tさんは前の会社で社内の派閥争いに巻き込まれ、リストラの憂き目にあった人物である。無職になってすでに半年、家族は妻の実家に引っ越しており、一人暮らしをしながらアルバイトでどうにか食いつないでいる状態だった。 A社は、Tさんのキャリアについては高く評価をしていた。商社出身で海外の仕事には慣れているし、語学も堪能だ。子会社の立ち上げの経験があり、ライセンスにも詳しかった。 問題になったのは精神面だ。Tさんの態度には、どこか冷めたところがあって、A社の役員は「リストラされ、家族とも別れ、捨て鉢になっているような印象がある」と彼を評していた。 果たして孤独な環境に耐えられるのかどうか、その一点だけが議論になったが、他に適任者はなく、前の担当者が辞めてしまっている以上、A社としては、できるだけ早く仕事を再開する必要があった。 「最悪でも、『つなぎ役』にはなる」 A社は、そこまで考えてTさんの採用に踏み切った。 だが、A社の予想は好い方に裏切られ、厳しい状況のなか、Tさんは満足いく結果を出している。では、孤独のなか、Tさんを奮い立たせているのは何なのだろうか。 あとで分かったことだが、離職中の暇な時間、Tさんはひたすら本を読んで過ごしていた。もちろん、ビジネス関係の書籍や、最近流行の自己啓発本も読んだりしたようが、なによりTさんの心をとらえたのは、ハードボイルド小説だった。 仕事や家庭・恋愛でひどい裏切りにあった主人公が、決して揺るがない信念で難局を乗り切っていく、その孤高の姿にTさんは自分を重ね合わせたのだ。半年間、男臭いフィクション世界に浸っていたTさん、A社に入社する頃には、すっかり物語の主人公に自分を同化させてしまっていた。 Tさんに頼まれ、A社の総務は、今もときどき新刊のハードボイルド小説を赴任先へ送っているという。 異国の地での厳しい仕事…、しかし、それもTさんにとっては人生の演出になっているのかもしれない。夜になると、Tさんはひとりバーボングラスを傾け、「一匹オオカミ」である自分に酔いしれている、A社ではそんな噂が囁かれているそうだ。 ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |
「端末メーカ各社の海外動向−2009年度上期−」(2月9日)
2009年12月16日(水)開催 10周年記念セミナー
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