|
ギャンブラーギャンブルというものには、特別な魅力があるらしい。興味のない人間にしてみると、ただの確率の問題にしか思えないのだが、好きな人にいわせると、そこにはロマンがあるという。
経理のMさん(29歳)は、就職でパチンコ業界A社を選択した。もともとパチンコ好きだったMさん、A社を選んだ理由は、内定になった会社のなかで一番、親近感をもてる会社だったからだ。 A社のなかでは経理を任され、そこでキャリアを積むことになったが、昨年、転機がやってきた。Mさんは友人等から、一緒に会社を興さないかと誘われたのだ。 A社の業績に、ややかげりが出てきたこともあり、最後は「ここらで、ひとつ賭けに出てみないか」という殺し文句を言われて、MさんはA社を辞め、ベンチャーB社にうつることにした。 ところが、予定通りに事業は広がらず、起業からわずか半年で、Mさんは再転職をせまられることになってしまった。だが、賭けることへの情熱は、Mさんのなかで消えることがなかったようだ。Mさんとやりとりをしていると、そこかしこにギャンブラーな様子が見て取れるのである。 たとえば、「この会社は難しいかもしれませんが、応募する価値はあると思いますよ」と少し難易度の高いと思われる求人をすすめると、「そうですね、自分も、このへんで大きくハッて(競馬・競輪用語)みるのもいいかもしれないと思ってました」 といった返事があるし、面接が続くと「最近、面接カクヘン(パチコン用語)してきてますね!」と、嬉しそうにする。 応募数が増えてくると「最近は求人票の、どことどこをみればいいかわかってきました。パラパラめくりながら、目押し(パチスロ用語)で会社を選んでますよ(笑)」 と、いった調子で、Mさんは全てを賭け事になぞらえてしまうのである。 無職だったMさんは、かなり熱心に転職活動を行っていたが、『ギャンブル好きの経理』という危うさもあってか、なかなか良い縁に恵まれなかった。 ようやく、ひとつ、建設業B社で内定をもらったものの、提示された給与条件は決して望む水準に達していなかった。しかも、その時、Mさんは別のB社よりもかなり良い条件が期待できるC社の最終選考にかかっていたのである。「せっかく役満をテンパっているのに、サンアンコウであがる(麻雀用語)ようなマネはしたくありません」 Mさんは内定を蹴って、文字通りC社に賭けることにした。 しかし、C社の選考結果は不採用。 さすがにこれにはMさんも落ち込んだようで、「あのとき、B社で決めていれば…。賭に出たのは間違いでした。自分の力量をわきまえていませんでした」というコメントが聞かれた。 「ここにきて『一発当ててやろう』的な性格を、少し反省したのかもしれない」と、我々は思っていたのだが、「まだ結果出ていない会社もあります。まだまだ頑張っていきましょう!」と励ましの言葉をかける、返ってきたのは…。 「そうですね、ハルウララ(競走馬名)だって負け続けながら走っているんです。自分もへこたれませんよ!」 あくまでもギャンブラーなMさん。しかし、我々には、どこか憎めないところがあるように思えてならない。何とかハルウララになる前に、内定を勝ち取って欲しいものである。 ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |