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娘に言えない仕事「タイムリミットまでに転職したいのです」
出版企画のやり手Mさん(39歳)は焦燥感をにじませた。 Mさんはビデオ・DVD作品の広告からキャリアをスタートし、そこから二社目の出版関係の広告代理店A社に移っていた。 もともとMさんが広告の仕事を始めたのは、彼が無類の映画好きだったからなのだが、映画のPRは、版権元からさまざまな制約をつけられることが多く、またMさんもまだ若かったため「やらされ仕事」の連続に嫌気が差して転職をすることを決意したのだ。 A社の仕事は出版関係の広告。ここでMさんは飛躍的にキャリアを伸ばした。 最初の頃は海外作品の紹介などをしていたのだが、あるマンガ・アニメ・キャラクターグッズのマルチメディアプロジェクトに参加し、これが当たると次々と仕事が舞い込むようになった。その後はプロジェクトを取り仕切るポジションを任されている。 そして、Mさんの最大の出世作は、いわゆる「萌え系」の広告展開だ。 彼としてはまったく「萌え系」に思い入れはないと言うのだが、クラアントからの要請でやった仕事が大当たり。いまやA社内では「萌え系広告」といえばMさんというイメージが定着しているほどだそうだ。 「A社からは評価されています。昇進も周りより早いですし、給与も問題ありません」 そう語るMさん、ではタイムリミットとはなんなのか? 実はMさんには7歳になる一人娘がいた。 ある週末、娘がマンガを読んでいる姿をみて、Mさんは体が凍りつく思いをした。娘が読んでいる漫画のキャラクターが、自分が手掛けたアダルトな内容の萌え系作品に酷似していたのだ。 Mさんはこれまで娘には「パパは絵本の仕事をしている」と説明してきた。それはそれで嘘ではないのだが、もし娘が父親の仕事に興味を持って調べるようなことをしたら、なまじ絵柄が「カワイイ」感のある萌え系なので、うっかり中身を見てしまうかもしれない。まして思春期になったら、父親がしている仕事をどう思うか…。 Mさんとしては、娘が自分の仕事の本当の姿に気づく前に転職をしたかったのである。 親の気持ちとして、Mさんの転職理由は理解できる。我々は彼と一緒に求人を検討し、いくつかの応募先を決めた。面談の最後に、「さぞかし可愛いお嬢さんなんでしょうね」と話題をふると、「みます?」とMさんは携帯の待ち受け画面をかざした。 「もちろんPCの壁紙も娘の写真ですし、それから普段もミニアルバムを持ち歩いているんですよ」 黒い仕事カバンから取り出されたアルバムには愛くるしい笑顔の女の子の姿が並んでいたが、そのなかのいくつかは妙な服装をしていた。 「これは…?」 「娘にいろんな格好させて写真撮るのが好きなんですよ〜。ネコの着ぐるみにこっちがナース姿で、これはバレエダンサー。ミニチュアの警官服もありますよ…」 にやけながらページをめくるMさんを見て思った。巷のそれとは趣向は違うのかもしれないが、Mさんも萌え系の一種なのではないか、と。 ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |
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