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文系嫌い人間は二つの種類に分けられる。男と女? 支配する者と支配される者? ゴルフをプレイする者とゴルフを観賞する者? いやいや、理系と文系といった考え方もある。世の中には理系的なセンスを持つ文系人もいるし、文系のように行動をする理系人もいる。しかし、理系に多いタイプ、文系に多いタイプというのが存在することに概ね間違いはないはずだ。
電気・電子技術エンジニアKさん(26歳)は、文系嫌いを口にしてはばからなかった。 「技術を知らない人(文系)が口を出してくると、仕事がやりにくくて…」 Kさんは唇をねじ曲げてそう言った。 Kさんによると、勤めている会社の経営が「消費者のニーズに合わせた開発」というスローガンを打ち出し、商品開発の根幹が『文系の人たち』に握られることになって仕事がやりにくくなったのだそうだ。 「市場調査に基づく仕様変更」が頻繁に行われ、エンジニアたちは逐一、マーケティング部の指示を仰いでいる。技術を知らない人たちの言うことは的を射ず、無駄なミーティングが繰り返され、開発現場の士気は落ちる一方。そして、誰もが転職を意識するようになったというわけである。 エンジニアが主体となって働ける会社が、Kさんの転職のプライオリティ。経営トップが理系の企業を見つけると、Kさんは「いいですね」と目を輝かせ、「ここの社長は開発現場のたたき上げらしいですよ」と伝えると、「ぜひ応募させて下さい」と頬を赤くした。 そして、メーカーA社の面接のときのこと。同席するはずだった技術部Oマネージャーがやってこなかった時に採用担当者がふと漏らした「すみませんね、お待たせして。まったく理系はこれだから困る」という言葉に、Kさんは強く反応した。 採用担当者は、仕事に没頭してしばしばミーティングや面接を忘れた前科のあるOマネージャーを軽く揶揄したわけだが、Kさんはそうは受け取らなかった。 『開発現場の苦労も知らずに…』 人事担当者の時間つなぎ的な質問に、ムッとした状態のKさんは、ぶっきらぼうな返事を繰り返した(担当者は、Kさんが不機嫌な理由は、来るべき人間が来ていないからだと思っていた)。 結局、面接時間中にOマネージャーは現れず、次回に持ち越されることになったのだが、面接直後、Kさんは「ああいうことを言う人がいる会社は、気が進みませんね」とA社を辞退する意向を示していた。 エンジニア不足に悩むA社人事は、Kさんの気持ちを聞いて驚き、慌てた。 「A社はKさんのやりたいことが出来る会社のはず。Oマネージャーと会って辞退されるのは仕方ないが、そうではないのだから、もう一度チャンスが欲しい。採用担当の失言については、心からお詫びする」と、何度も我々に連絡があった。 熱心な勧誘は誰にとっても嬉しいことだ。Kさんは数日経つと頭も冷えたようで、「仕事に没頭して、ミーティングをすっぽかすような人は面白いかもしれない」と、A社を再度訪問することに同意してくれた。 こうして行われた二度目の面接は一対一でおこなわれ、Kさんはあっという間にOマネージャーに魅了されてしまった。発想力の広さ、時間も何も忘れてしまう集中力、一見豪快だが実はシャイな性格、全てが『理系的』だったのだ。 Kさんが一度A社を辞退しかけた経緯を聞いていたOマネージャーは言った。 「俺も文系のやつらは苦手だよ。歴史の教科書には連中のことばかり書かれているが、500年前も今も、人類の進歩に本当に貢献しているのはエンジニア、つまり理系の人間だ」 Kさんはニコニコしながら頷いたが、Oマネージャーはさらに続けた。 「しかし、連中がいないと回らないこともある。今回の面接、俺は『心からA社に入りたいと思うエンジニアじゃないと勤まらない』と言ったんだが、人事は『このKというエンジニアはきっと俺に合うから』と言って譲らなかった。どこがって聞いたら『文系嫌いなところが』っていうんだ。笑ったよ、自分たちが嫌われているから良いなんて。 けれど人事は俺にも転職エージェントにも何度も頭を下げてこの面接をセッティングした。俺らがこうやって開発に集中できるのは、文系のやつらのお膳立てがあってなんだ」 Kさんはそれを神妙な顔で聞いていたという。 理系には理系の役割、文系には文系の役割があり、相互に依存しあって世の中はなりたっている。男と女、支配者と被支配者、ゴルフプレイヤーとギャラリーの関係と同じように。 ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |
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