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転職のヤマ場「一般に転職のヤマ場と言えば面接だと思われているが、我々の目からみるとそうとも言い切れない…」
こう書くと「わかっている、わかっている。今の売り手市場では内定を取るのは簡単。退職する方が大変なんだろう」という声が聞こえてきそうだが、今回のこのコラムで紹介するのは、また別のヤマ場の話である。 Kさん(29歳)は中堅メーカーA社に就職したが、会社が不祥事を起こしたことをきっかけに、機械メーカーB社に転職した。しかし、不況のなかでB社も縮小の一途をたどり、Kさんは多忙な仕事のなかで体調を崩し春先に退職をしていた。 友人の紹介で我々のところに来たKさんは、自信喪失気味な様子であった。 「キャリアといっても、取り立ててお話しするようなことは何もないので、こんな自分が転職活動するっていうのも、おこがましいのですが…」 Kさんはなにか汚いものでも扱うような手つきで、自分の職務経歴書を我々に手渡した。 たしかに、Kさんが仕事でトロフィーを得たような経験はない。だが、歴史ある会社でビジネス・組織のなんたるかを学び、厳しい市場環境で積み重ねてきた一貫した営業キャリアは、決して卑下するようなものではなかった。特にB社では同僚が次々と辞めるなか、販促・営業企画にも深く関わっており、一線で活躍している姿が見て取れた。 「悪いキャリアではないと思いますよ。A社は不祥事のまっただなか、B社は業界自体がダメだった時ですから、実績を出すのは難しいですよ。面接する側もそういうところはくみ取ってくれるものです」 我々の繰り返しの励ましに、Kさんは徐々に気を持ち直し、再就職に向けてモチベーションを高めていった。 Kさんはキャリアを活かす意味で、自動車関連を中心に、メーカーばかり6社への応募を決め、3社で一次面接をすることとなった。なかなかの確率である。 ところが、面接日を待つ間に、Kさんは相談にきた最初の時の状態に戻ってしまっていた。 初面接の前日、我々が電話をすると 「面接に行くのはやめようかと…。どうせ、落ちるに決まっていますから」 と、Kさんは言う。なんでそんな風に思うのか問うと 「だって、明日面接に行く会社より、ずっと小さい会社の書類選考に通ってないじゃないですか」と、トンチンカンな答えが返ってきた。 「小さな会社に落ちて、大きな会社から内定をとるなんていうのは、よくあることですよ。書類選考を通ったのですから、必ずチャンスはあります」 「でも…」 Kさんはその後3時間グズり続けた。「明日は面接に行きます。約束します」という言葉を聞くことが出来たのは、深夜近くになってからだった。 最初の2社はどうにかこなしたが、面接に落ちたことが判明した後の3社目、Kさんはついに面接を欠席した。 「無理です。自分が行ったら、『どうしてこんな人が来たんだ』って、呆れられます。きっとエージェントさんにも迷惑がかかりますよ」 「何を言っているんですか。面接に行かない方が困りますよ」 前日にこんなやりとりをした末、結局Kさんは面接を辞退した。 我々はもう一度Kさんを元気づけ、再応募にこぎ着けたが、その後も面接日前の行く・行かないの押し問答はなくならなかった。 「とにかく、再就職しなくてはならないのは間違いないわけですから、面接に行かないと何もはじまりませんよ」 「でも、このまま『落ち癖』がついてしまうのも怖い気がするんです…」 「何を言っているんですか。『面接に行かない癖』がつく方がもっと怖いですよ。自信を持って。」 毎回この調子だったわけだが、ある会社で一次面接を突破するとKさんは自信を取り戻し、二次面接では素晴らしい評価を受けて内定。そして離職中だったため、三日後に出社。それこそアっという間に転職が決まってしまったのである。 Kさんのケースで言えば、転職のヤマ場は「面接に行く決意をすること」と言って差し支えないと思う。そこさえクリアできれば、結果は自ずとついてくるのだから。 失敗をおそれるあまり、チャレンジしない…、若手を中心に、そうした事例が増えているように思える。たしかに自分を試すのは怖いことだ。万事「一歩、踏み出す」その時こそが最大のヤマ場なのかもしれない。 ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |
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