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転職は恋の予感会社と個人の相性を見極めるのは簡単なことではない。経験年数、スキルのある/なしは客観的にマッチングできるが、雰囲気が合う/合わないの見極めは、ちょっとやそっとでは成し得ない。
ベンチャー的、歴史がある、自由、落ち着いている、活気がある、アットホーム、プロ集団…、色々な言葉を駆使して社風を伝えようとはするが、結局、面接した時に「ビビッとくるかどうか」で決まることが多いのも事実である。 Kさん(28歳)にとって、企業を決める基準は「ビビッとくるかどうか」だったが、彼女のそれには分かり易い基準があった。 「人事の人か、上司になる人か、とにかくその会社で面接をしてくれた人を見て、『この人だったらつきあってもいいかな』と思えれば、入社すると思います」 Kさんはいたずらっぽく目を細めた。我々が「そんな…」と、冗談を受け流すようなことを言うと、彼女は声を強めて続けた。 「真剣ですよ。よい方法だと思いません?自分に合った人を採っている会社なら、信用できるじゃないですか。そういう人がいれば、頑張って仕事を続けようっていう気になるし」 「そうかもしれませんね」 苦笑いする我々に、Kさんはアゴをあげて「カイシャ選びってそんなものじゃないですか?」と付け足した。 彼女のいわんとすることも分からないではないが、それが多くの人にとって真実だとすると、マッチングをする我々は頭が痛い。「ステキな採用担当」を基準にされても、主観の相違というものがある。 Kさんは短大卒業後、3社の勤務経験があった。最初に就職した企業は「幻滅して」2ヶ月で退職。次の会社で経理担当になり4年、そこからステップアップして中堅商社の財務会計を3年とキャリアを伸ばしてきた。経理キャリアは一貫しており、3社目の経理部門が貧弱だったこともあり、直近はかなり難易度の高い仕事も任されるようになってきていた。 Kさんは「業界も、会社の規模も、特にこだわらない」と言っていたので、応募対象となる企業はほぼ無数にあった。果たして、どうしたらKさんを「ビビッと」こさせることが出来るのか考えたが、結局は面接数をこなしていくしかないと我々は腹をくくることにした。 離職中のKさんは積極的に面接・企業セミナーに出向いた。大手関連も独立系も、ネット企業もメーカーも、全て同じ土俵で判断をしているようで、彼女が「良さそう」と言う企業にはこれといった共通点はなかった。Kさんは、勤務地・給与条件・オフィス環境、そしてなにより前述の言葉通り『人』を見て会社を評価しているようだった。 そして、いくつかの選考が並行して進んでいるなか、KさんはセキュリティサービスA社の一次面接に出向き、電光石火で内定、いや入社を決めてしまった。A 社は二次面接も予定していたのだが、たまたまその日、役員の方の時間が空いていて、会うべき人全員と顔合わせが出来たというのだ。 「ビビっと来ました」Kさんがそういうのを聞いて、我々は思わず聞いてしまった。 「では、A社で『つきあってもいい人』が見つかったんですか?」 「アハハ、A社にっていう意味ですよ。でも、採用担当のYさんなんて、悪くないかもしれないですね」 Kさんのしゃべり方には、いつも冗談か本気か分かりにくいところがある。彼女は我々が少し困惑してなんと言おうか迷っている機をとらえ、さらに続けた。 「本当のことを言うと、私が社会人になって好意を抱いた人って、みんな私を採用してくれた人なんですよ」 我々はA社の採用担当Y氏の優しい笑顔を思い出したが、同時に彼の左薬指にリングがしてあることも覚えてい た。 「A社からも連絡があると思いますが、今週金曜にもう一度A社に行って手続きをして、来月からすぐ働くことになります。いろいろとお世話になり、本当にありがとうございました」 Kさんは内定が決まったことを喜び、サバサバとした様子で電話を切ったのだが…。 A社に恋と嵐の予感を抱いたのは、我々の考えすぎであろうか? ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |