Career
キャリア
クリスマスサプライズ
| 2008年1月9日 / 10:00 |
|
Sさん(29歳)は、彼が転職したことを恋人に黙っていた。それをサプライズとしてクリスマス直前に明かすつもりだったからだ。Sさんが転職したことを聞いた彼女は、驚くと同時に怒り出してしまった。
Sさんが転職しようと考えた理由自体が、恋人を思ってのことであった。今の時代、「家柄」といったことを気にする人は少なくなったが、Sさんの彼女は正にエリート一家。父親は大企業の重役・二人の兄は公認会計士とシンクタンク研究員、彼女自身も大手金融会社に勤務していた。
一方、Sさんは就職氷河期組とはいえ、中堅と呼ばれるのがせいぜいの不動産会社の SE。出身大学も「ランク」でいえば彼女より一段二段落ちるところだった。
二人が知り合ったのは、あるアーティストの共通のファンだったことがきっかけだった。ライブ終了後のファンの集まりで同じテーブルにつき、そこで次のライブへ一緒にいく約束をした(Sさんは良い席のチケットを持っていて、一緒に行く人を捜していたのだ)。
次に会ったとき、Sさんは彼女の家族についてはもちろん、彼女自身のステータスについて何も知らないまま彼女を食事に誘い、二人は付き合うようになっていった。
相手のことを知るに連れ、Sさんの気持ちは真剣になったが、同時に自分が彼女に見合っていないという思いに駆られてもいた。Sさんは彼女に見合う男になりたくて、転職で少しでも名のある会社に移りたいと考えたのだ。
Sさんは非常な努力をした。我々にアドバイスを求め、書類を何度も書き直し、応募する企業のホームページをしっかり読んで情報を頭にたたき込んでいた。転職に有利になるかもしれないという理由で、それまで足遠かった技術研修にも参加した。面接で落ちるとその理由を熱心に聞き、必ず次回に活かしていた。
こうした努力と、人不足のタイミングの良さがあいまって、Sさんは総合化学メーカーA社への転職を決めた。Sさんは彼女が当然この転職を喜んでくれるとばかり思っていた。
世の中がクリスマスの喧噪に浮かれている中、Sさんは我々のところにしょんぼりした様子で連絡をくれた。
「どうして、彼女が転職を喜んでくれないのか分からなくて…。なにかA社の悪い噂でも耳にしているのでしょうか?」
実はこの時まで、我々もSさんが転職した本当の理由を聞かされていなかった。だが、ことの経緯を聞き、我々の経験から彼女がなぜ怒っているのかをすぐに察することができた。
「Sさん、彼女はきっと『大切なことを相談してもらえなかったこと』に怒っているんだと思いますよ。」
我々がSさんに彼の転職の記録(面談のメモ、書き直す前のレジュメ、応募した会社のリスト、メールのやりとり、面接後のフィードバック)、残っているものすべてをプリントアウトして渡した。
「何があったのか、全部彼女に話してみてはどうでしょう?」
Sさんはクリスマスに彼女と会い、自分が何も話さずに転職してしまったことを謝った。そして、分厚いプリントアウトを手に、それまでの3か月間、どんなこと考え、どんなことをしたのかをひとつひとつ説明していった。彼女はすぐに笑顔を取りもどし、二人の会話はとぎれることなく続いたという。
「男は格好つけて独りでやりたがるけど、女性っていうのは一緒にやることを好むんだって思い知りました。」
仲直りしたSさんは上機嫌だったが、新しい会社の仕事は思ったよりもハードらしく、気を引き締めてもいた。
「A社に入っただけじゃダメで、そこで活躍できるようにならなければホンモノじゃないですよね。彼女に認めてもらおうと思ってやった転職だけど、結局、プラスマイナスゼロだった気がするし、これから頑張ります。いつか、彼女にも自分のことを本気で考えるようになって欲しいですから。」
Sさんは気づいていなかったようだ。『大切なことを一緒に乗り越えていきたい』と女性が思うのは、本気の時だけであるということを。
Sさんが転職しようと考えた理由自体が、恋人を思ってのことであった。今の時代、「家柄」といったことを気にする人は少なくなったが、Sさんの彼女は正にエリート一家。父親は大企業の重役・二人の兄は公認会計士とシンクタンク研究員、彼女自身も大手金融会社に勤務していた。
一方、Sさんは就職氷河期組とはいえ、中堅と呼ばれるのがせいぜいの不動産会社の SE。出身大学も「ランク」でいえば彼女より一段二段落ちるところだった。
二人が知り合ったのは、あるアーティストの共通のファンだったことがきっかけだった。ライブ終了後のファンの集まりで同じテーブルにつき、そこで次のライブへ一緒にいく約束をした(Sさんは良い席のチケットを持っていて、一緒に行く人を捜していたのだ)。
次に会ったとき、Sさんは彼女の家族についてはもちろん、彼女自身のステータスについて何も知らないまま彼女を食事に誘い、二人は付き合うようになっていった。
相手のことを知るに連れ、Sさんの気持ちは真剣になったが、同時に自分が彼女に見合っていないという思いに駆られてもいた。Sさんは彼女に見合う男になりたくて、転職で少しでも名のある会社に移りたいと考えたのだ。
Sさんは非常な努力をした。我々にアドバイスを求め、書類を何度も書き直し、応募する企業のホームページをしっかり読んで情報を頭にたたき込んでいた。転職に有利になるかもしれないという理由で、それまで足遠かった技術研修にも参加した。面接で落ちるとその理由を熱心に聞き、必ず次回に活かしていた。
こうした努力と、人不足のタイミングの良さがあいまって、Sさんは総合化学メーカーA社への転職を決めた。Sさんは彼女が当然この転職を喜んでくれるとばかり思っていた。
世の中がクリスマスの喧噪に浮かれている中、Sさんは我々のところにしょんぼりした様子で連絡をくれた。
「どうして、彼女が転職を喜んでくれないのか分からなくて…。なにかA社の悪い噂でも耳にしているのでしょうか?」
実はこの時まで、我々もSさんが転職した本当の理由を聞かされていなかった。だが、ことの経緯を聞き、我々の経験から彼女がなぜ怒っているのかをすぐに察することができた。
「Sさん、彼女はきっと『大切なことを相談してもらえなかったこと』に怒っているんだと思いますよ。」
我々がSさんに彼の転職の記録(面談のメモ、書き直す前のレジュメ、応募した会社のリスト、メールのやりとり、面接後のフィードバック)、残っているものすべてをプリントアウトして渡した。
「何があったのか、全部彼女に話してみてはどうでしょう?」
Sさんはクリスマスに彼女と会い、自分が何も話さずに転職してしまったことを謝った。そして、分厚いプリントアウトを手に、それまでの3か月間、どんなこと考え、どんなことをしたのかをひとつひとつ説明していった。彼女はすぐに笑顔を取りもどし、二人の会話はとぎれることなく続いたという。
「男は格好つけて独りでやりたがるけど、女性っていうのは一緒にやることを好むんだって思い知りました。」
仲直りしたSさんは上機嫌だったが、新しい会社の仕事は思ったよりもハードらしく、気を引き締めてもいた。
「A社に入っただけじゃダメで、そこで活躍できるようにならなければホンモノじゃないですよね。彼女に認めてもらおうと思ってやった転職だけど、結局、プラスマイナスゼロだった気がするし、これから頑張ります。いつか、彼女にも自分のことを本気で考えるようになって欲しいですから。」
Sさんは気づいていなかったようだ。『大切なことを一緒に乗り越えていきたい』と女性が思うのは、本気の時だけであるということを。
※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。
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