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2008年1月31日 12:10
転職徒然草
転職徒然草 リクルートエージェントメールホーム
誰も知らない、語らない転職裏話。エージェントを通じて転職した人、やっぱりやめた人。転職を考えていない人でも、真面目に考えている人でも楽しめる、日替わりコラムです。

相場は揺れる

転職市場は、人材の需要と供給が交わる場、相場は日々刻々と変わっていく。しかも、為替や株のような相場と違い、数字で表せないアナログな相場だということが、この市場を難しくしている。昨日まで面接に通らない人が今日は通る、今日不採用の人が明日なら内定かもしれない、それが転職なのである。

商社系システム開発A社は、新卒採用が難易度を増したことからキャリア採用に力をいれるようになり、いまやほぼ全職種で採用を行うようになっている。

A社の採用を取り仕切るのは、ゼネラルマネージャーM氏である。長年にわたって採用に携わってきたM氏は、転職エージェントの使い方を心得ていて、我々にとってA社は、厳しくも理解のある有り難いクライアントであった。

ところが、昨年末、A社で不可解な混乱が生じはじめた。

M氏は、自分が会った人については、すべて職種毎に採用したいと考える暫定の優先順位を示してくれていた。その後に役員面接があるので、その順位は確定したものではないとM氏は言っていたが、それが変わることは滅多になく、あっても判然とした理由があった。

その秩序はここ数年、揺らぐことはなかったのだが、突如M氏は優先順位の高い人をペンディング(保留)とし、第二位・第三位、あるいはそれ以下の暫定評価の人を役員面接に先に上げると告げてきた。

「これは、評価が変わったということなのでしょうか?」
「いや、決してそうではないんだけどね…。」
「では、どういう?」
「うん、まあ、事情があってね。」

採用に関して、M氏が秘密主義的な態度をとったのは初めてといってよかった。

我々はそれ以上M氏に理由を尋ねなかったが、保留状態になった人や先に役員面接になった人のリストをつくり、じっくり精査してみた。すると見えてきたのは、A社への志望順位が高い人を優先しているという事実だった…。

A社の変化は、Tさん(26歳)にとってラッキーなことだったろう。エンジニアとして当初Tさんは『現時点の四番手』という微妙な位置であったのが、友人がA社の営業として働いていることを理由にA社を第一希望にあげていたため、優先的に役員面接に進むことが出来たのだ。

そのTさんに、M氏は「内定になった場合、入社するつもりかどうか」を役員面接の前後で、繰り返し質問した。

「事情があって、辞退となると非常に困るんです。」
「入社はするつもりです。でも、いま入っているプロジェクトの関係で、入社時期はしばらく待ってもらいたいのですが。」
「ああ、そっちの方は問題ないですよ。辞退さえしないのならね。」

Tさんはどうしてそこまで辞退を怖れるのか疑問に感じ、A社で働いている友人に話を聞くことにした。「同期の人事から聞いたんだけど」その友人は言った。

「役員の一部から、『役員面接までやったのに、採用出来ないことが多すぎる』ってクレームがあったみたいだね。Mマネージャー、来期に昇進の話が出ているから、今は波風たてたくないんじゃないかな。」

これを聞いたTさんは、気持ちが一気に冷めてしまった。というのも、Tさんが現職を辞めようと思った理由のひとつは「誰と誰が仲がいいとか悪いとか、どうでもいいような会社の都合で、良いシステムを作るという最大の命題がそこなわれている」という理由だったからだ。

「個人的な昇進の争いで仕事の進め方を決められてしまうなら、A社に転職する意味がない」とTさんが考えたのは当然であった。

Tさんの考えを知って、M氏は慌てて我々に連絡をしてきた。

「A社は子会社だから、いろいろと無理を言われるのは事実ではあるんだ…。役員も親会社出身が多いしね。プロパーから役員になれるチャンスはあまりないんで、今回僕が昇進できれば、現場をより大切にする会社に変えていけると思う。自己弁護にしか聞こえないかもしれないが、そういう状況のなかでの判断なんだ。Tさんに僕が言っていたことを伝えてもらえるかな?」

M氏の言葉を受け、Tさんは転職をするかどうかあらためて考えているところである。

現在も、A社は期間限定で採用の方針を『意欲重視』にシフトしている。応募者の意欲は、採用選考上とても重要なファクターではあるが、M氏の昇進が内示されれば彼はまた元の判断基準に切り替えるだろう。

転職マーケットは、様々な思惑が絡まりながら、今も形を変えているのだ。



※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。


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