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リクルートエージェント リクルートエージェント
誰も知らない、語らない転職裏話。エージェントを通じて転職した人、やっぱりやめた人。転職を考えていない人でも、真面目に考えている人でも楽しめる、日替わりコラムです。

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「素直さ」の代償

著者: リクルートエージェント プリンター用 記事を転送
2008年2月20日 14:30 付の記事
□国内internet.com発の記事

『素直さ』は転職するにあたって、悪い材料ではない。

相手の言葉を素直に受けとる『能力』は、新しい環境に馴染めるかどうか、つまり適応力があるかどうかに結びつく、と採用する側は考えるからだ。我々の視点から言っても、転職活動中、素直にアドバイスに耳を傾けてくれる求職者の方は、短期間に転職上手に成長し、多くの選択肢を手にしているように思える。

ただ、転職は時に、その素直さを傷つけてしまうことがあるのだ…。

部品メーカーA社の回路設計エンジニアTさん(25歳)は、我々のところでこう悩みを打ち明けた。

「エンジニア不足で、部署では自分が一番下。責任のある仕事を任せてもらえないどころか、先輩のサポートで作業みたいなことばかりやらされているんです。上司(プロマネ)に何度か不満を訴えたんですが、変化がないので友人の薦めもあって転職しようかと…。」

我々はTさんと転職の条件・リスク・方向性・人生計画まで、様々なことについて話をしたが、彼はどんな質問に対しても実直で、レスポンスが早く、内容も的確。我々の話をメモに取りながら熱心に聞き、言うことすべてを自分のものとして受け入れているように見えた。Tさんの素直さは、我々の印象に強く残った。

仕事への意欲・エンジニアとしての基礎・コミュニケーション能力・そして素直さ…。仕事上の経験不足はあるもの、Tさんは転職に必要な多くのものを備えており、我々は彼ならすぐに良い会社が見つかるだろうと感じていた。

実際、各社の面接でTさんの評価は抜きん出ており、すぐに条件・仕事内容とも現職A社より数段上のB社から内定を取ることができた。もちろんTさんは大喜び。「B社に入社するのが楽しみです」とまで言っていたのだが…。

退職交渉をはじめて三日、Tさんは「A社に残ろうかと思うんです」と連絡をしてきた。

「どうしたんですか?あんなに内定を喜んでいたのに。」
「上司に話をしたら『そういうことなら俺に任せろ。出来るだけ早く、他の開発プロジェクトにアサイン出来るようにするし、給料も上げるから』と言われました。それに『今辞められたら、部署も回らないし、A社全体として大打撃だ』って。」

我々に言わせれば、どれも慰留のための常套句である。Tさんのことを考えてというよりも、目の前の仕事を回すための、その場限りの台詞といった気配が濃厚に感じられた。しかし、根が素直なTさんは、上司の言葉を完全に真に受けていた。

「そこまで信頼してくれているのに、それを裏切って転職するのは、ヒトとしてどうかと思うんです」純真なTさんに向かって、頭ごなしに「そんなことがあるわけがない。疑ってかかりましょう」というもの気が引ける。我々は、自然な会話の流れになるよう気を配りつつ、詳細を聞いていった。

「そうでしたか。転職しないに越したことはないですからね。で、異動はいつなんですか?」
「え?どうかな。多分、次の4月じゃないかと。ハハハ。」
「ふーむ、まだハッキリしていないんですね。では、給与はいくら上がることになったんですか?」
「ドーンと上げてやるからって言われたんで、安心しているんですけど。そこで、金額を聞くのもいやらしいですし。」
「具体的にどのプロジェクトに入って、どの仕事を任せてもらえるのか、上司の方は教えてくれました?」

ここまできて、Tさんも我々の懸念に気づいたようだった。

「いえ…、それについても何も…。」
「Tさん、脅かすわけではありませんが、内定になったB社は、Tさんを受け入れるにあたって、時期も、ポジションも、給与も明確に出してきているわけですよね?それと比べて、あまりにも漠然としすぎてやしませんか。」
「そ、そうですね。」
「ここは、すぐにB社の話を断るのではなく、A社が本当にTさんの将来を約束してくれるのか、きっちり確かめた上でもう一度判断しましょうよ。」
「分かりました。週明け、もう一度上司と話をしてきます」

月曜の夜、電話は来た。

「…すみません。やっぱりB社に転職します。」

Tさんの声は、オクターブも低く聞こえた。

「どうしたんですか?」
「上司に会って、疑問点を聞いていったら、『約束なんかできない。ゴチャゴチャ言うなら、明日から来なくていい』って言われました。」

慰留のためにウワっ面だけのことを言う上司は数多くいる。が、ここまで見事な手のひら返しは珍しい。そして、それが疑うことを知らないTさんに当たったのは、不幸としか言い様がなかった。

「…人って平気な顔でウソをつけるんですね。あの…、B社の内定って間違いないものですねよ?なんか、不安になっちゃって…。」

新しい世界を手に入れたTさん、しかし、それと引き替えに大事なものを失ってしまったのかもしれない。



※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。



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