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病歴自慢

著者: リクルートエージェント プリンター用 記事を転送
2008年2月21日 10:00 付の記事
□国内internet.com発の記事

病気をきっかけに転職を考える人は多い。あまりの多忙さに体調を崩してしまう、望まない仕事のストレスで持病が悪化する、以前のように働けるはずと無理をして倒れてしまう…などなど。

ただ、「病気を理由に転職」がよく聞く話だとしても、面接をその理由だけで乗り切るのは難しい。企業は新しい人材に「期待」をしている。仮に病気がきっかけだということを申告するにしても、それに加えて、どうして「その会社」「その仕事」を新しく選んだのか、積極的な理由を聞きたがるものだ。

広報:Tさん(35歳)は、我々との面談で、言葉を選ぶような慎重な話し方をしていた。しかし、話が退職理由の病気のことに及ぶと目を爛々とさせ、語り始めた。

「脇腹に鈍痛があったのですが、初めはずっと無視していたんですね。そのうちに微熱が続くようになって病院に行ったのですが、最初の病院ではまったく原因不明で…。」

Tさんは、自分の病気がどうやって悪化し、そこからいかに回復したかの長い物語を聞かせてくれた。

「そ、それは大変でしたね。ともかく、こうしてまた元気になったのですから、仕事の話を…。」

我々を制してTさんは話し続けた。

「わたし、今回だけじゃないんです、特殊な病気になったの。7年前にも別の症状があって…。」
「Tさん、分かっているとは思いますが、面接で病気の話を強調しすぎると、良い印象をもたれないと思いますよ」 「ええ、もちろんです。」

Tさんは、すっきりと理解を示してくれた。だが、嫌な予感ほど的中してしまうものである。我々のアドバイスを無視して、Tさんは面接に行った先で、自分が病気になった経緯を、なかば喜々としながら話すことを止めなかった。

面接後の企業からのコメントは「正直に言って、Tさんは、仕事より病気に興味があるように見えました」というもの。これではどこにいっても、内定などおぼつかない。我々は再度、「昔の病気よりも、これから何がしたいか、何が出来るかのことが大切なはずですよ」とTさんに呼びかけたが、次の面接でも彼は(前回よりも分量は減っていたようだが)病歴自慢を披露しつづけたのだった。

「良いキャリアがあるのですから、そこをアピールしなくては…。」
「でも、最近自分におきた一番大きな出来事なんですから、新しい勤め先にも知ってもらった方が良いと思うんです。それに、この病気を社会に認知してもらうのは、偶然にせよ、患者になった私の義務なんじゃないかって。」
「それは、転職してからでも出来ることではありませんか?」
「だって、必ず内定になるとは限らないんですから…。」

Tさんとの話は、往々にしてこうした押し問答になってしまうのだった。

病気であったことがプラスになるかもしれないと考え、医療・福祉関係の会社にも紹介を試みたが、結果は変わらず。我々が専門商社A社を紹介したのは、なかば当てずっぽうのようなものであった。

微かな望みは、A社の人事・広報兼任のマネージャーであるS氏が、最近交通事故にあって長期入院をしていた事実だった。

「ひょっとしたら、Tさんの境遇に理解を示してくれるかも。」

そう思ってのマッチングだったが、結果は予想を超えるものだった。偶然にも入院/通院したのが同じ病院だったことから、二人はすぐに旧知の友人のように会話を始め、その場で内々定がTさんに伝えられたのである。

我々が間に入らなければ、TさんがA社を発見するチャンスはほとんどなかったであろうから、我々としてはしてやったりの転職なのだが、不安は消えない。S氏はともかく、他のA社のスタッフに馴染んでいけるかどうか…。

不謹慎と知りつつ、「A社に健康不安を抱えている人が多くいればいいのに」と思ってしまう我々なのであった。



※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。



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