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同期の桜Sさん・Kさん・Mさん(いずれも25歳)は重機メーカーA社の同期組、営業部で机を並べてきた仲間だった。社会人になってからの友人関係は、学生時代より薄くなりがちだが、この三人は堅い友情で結ばれていた。
我々のところに最初にやってきたのはSさんだった。彼の転職動機・応募企業はごく普通のものだったが、Sさんは終始、どこか居心地の悪そうな素振りをみせていた。 「大丈夫ですか?さきほどから、気分がすぐれないようですが?」 「罪悪感が…」Sさんは小さな声で言った。「友達二人に黙って、抜け駆けでここに来てしまったので…。」 「その二人というのは、先ほどの話に出てきたA社同期の人ですね?」 SさんがA社での仕事について説明したとき、そこかしこにKさんMさんの名前が出て来ていた。「友達」というのがその二人だというのは、容易に想像がつくことだった。 「アイツらは親友、『同期の桜』ってやつなんです。KともMとも転職のことを話し合ったことがあるのに、独りでやってくるなんて…。」 「では、そのお二人と一緒に転職活動をしてみては?」 「…そうですね。帰って、話をしてみます。」 半分冗談で言ったつもりだったのだが、KさんとMさんが我々のところに連絡してきたのは、すぐ翌日のことだった。 二人は、Sさんが先んじて転職活動に動いたことを怒ってはいなかった。むしろ、「あいつは、三人のなかで一番行動力があるんですよ」と、賞賛の言葉を発していた。 直接会ってみるとSさん・Kさん・Mさんは、転職の志向だけでなく、性格もとてもよく似ていた。メーカー希望、真面目で人情に厚く、そして少しばかりズレているところも…。 三人は、示し合わせたわけでもないのに、同じ企業に応募することが何度もあり、期せずして選考の競争相手になることが続いたのだった。 転職活動を始めて一か月、医療機器メーカーB社で、三人のうちで初めての内定をKさんがもらうと、彼は思わぬことを言い出した。 「あの会社にはSも応募していたのに僕が内定だなんて…。Sがいなければ、少なくともこのタイミングで転職しようと思わなかったでしょう。アイツには借りがある。恩を仇で返すわけにはいきません。」 「いや、しかし、この求人の枠が一人っていうのは応募した時から分かっていたことじゃないですか。」 「はい…。でも、実際に自分だけが内定をもらって気づいたんです。Sを踏み台にするわけにはいきません。」 B社の内定を受けても、恩を仇で返すことにはまったくならないし、『踏み台にする』という喩えは、こういう場合では使わないと我々は思ったのだが、繰り返し話をしてもKさんの気持ちは変わらなかった。 次に自動車部品メーカーで内定を勝ち取ったのはMさん。しかし、彼も同じようなことを言い出した。「KがSへの義理を果たしたのに、自分がここで転職することは許されないですよ。恥の上塗りになってしまいます。」 ちっとも許されないことではないし、『恥の上塗り』という言葉の使い方は完全に間違っていたわけだが、Mさんは「友人を裏切れない」と言って、頑として内定辞退を譲らなかった。 こうなると、Sさんがどうにかならなくては、他の二人が前に進めないと思った矢先、良いニュースが届いた。工作機械メーカーからSさんに内定の連絡があったのだ。 ところが、Sさんは、せっかくもらった内定を断ると言ってきた。 「KとMが、自分のために内定をフイにしたのに、一人先に転職を決めるなんて。仁義を切るようなマネをしたら笑われます」というのである。 Sさんが『信義にもとる』を言い間違えたのか、『仁義を切る』という言葉の意味を誤解していたのかはさておき、友情あふれる三人の男達は、いまや堂々巡りにおちいり、『同期の桜』は見事に散りっぱなしなのである。 ※このコラムは、事実を元にしたフィクションです。 |
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