ビジネスとデザインの諸相――家電業界の場合――(4)(前回はこちら)
5.デザイン家電は家電業界を変革するか クリステンセンはその著書『イノベーションのジレンマ』の中で、既存の業界大手を市場から駆逐してしまうような技術を破壊的技術(破壊的イノベーション)と呼び、今ある技術を基盤に更なる改良を試みる持続的技術(持続的イノベーション)と区別している。 メーカーはバリュー ネットワークに組み込まれているため、主要市場の大口顧客が求める持続的技術の追求に一生懸命になっている。破壊的技術が現れても、通常、その技術は主要市場の大口顧客の関心にはならない。 また、破壊的技術の市場が小さいため、大手メーカーでは、この技術への投資は見合わない。このため、持続的技術の追求に邁進し、破壊的技術への対応は怠ることとなる。 この構造の中で、破壊的技術は、主要市場とは別の市場で普及し始める。小さな市場に見合った小さな組織がこの普及役を担うこととなるが、次第に、破壊的技術は、主要市場の顧客の需要にマッチした技術にまで成長する。 その時に、持続的技術の追求を行っていた大手メーカーは既に遅れをとってしまっている。持続的技術は破壊的技術に取って替わり、それまでの業界大手は市場から駆逐されてしまう。 つまり、顧客の要望を大事にして一生懸命に技術を追求し、経営を行っているからこそ、市場で失敗してしまう、これが「イノベーションのジレンマ」の構造である。 リアル フリートの家電業界を変革したいという思いを知った時、一瞬、このシナリオを想定した。つまり、デザイン家電を作る小規模な優良メーカーとその系列販売店が、大手メーカーと家電量販店を駆逐する、というシナリオである。 しかし、このような意味での業界変革をデザイン家電が行うことは考えにくい。何故ならば、デザイン家電は、クリステンセンが定義するところの破壊的技術ではないからである。 クリステンセンによれば、破壊的技術は、通常、既存技術に比べて低性能で安価という特徴を備えている。一方、デザイン家電は、性能的にはシンプルで高機能ではないかもしれないが、主要市場の製品群よりも趣味性が高く、高価である。 つまり、どちらかと言えば、価格よりも趣味性やサービスといったものを重視するハイエンドな消費者に向けた商品カテゴリーとなるからである。 では、デザイン家電を軸とした現実的な業界変革のシナリオとはどのようなものになるのだろうか。 まず、デザイン家電のターゲットとなる消費者は潜在的にどれくらいいるのかを考えてみよう。家電の小売市場が6兆円前後で今後も推移すると仮定した場合、その3割は地域に根差した小規模小売店やデパートにおける売上である。 これら3割の消費者(市場規模にして1.8兆円)は、地縁であったり、サービスであったり、趣味性であったり、利便性であったり、と言った理由から量販店ではないルートから定価に近い額での購入を行っている。 つまり、何らかの理由で価格以外の要因が決定的な購買要因になっている層である。このため、この層はデザイン家電の潜在的ターゲットとなり得るだろう。 また、価格や品揃えの面で量販店に適わない小規模小売店やデパートにとっても、量販店では販売されないデザイン家電を扱えることが、量販店との差別化ポイントとなる。量販店にはない顧客に密着したサービスと合わせれば、これからも生き残っていくことが可能となろう。 顧客の嗜好を捉えつつ、創り手の思いのこもった製品を生み出し、適正な価格でじっくりと一人一人の消費者と対話しながら売っていくような体制を創出すること。家電量販店の市場に比べれば半分以下の規模にもならないかもしれないが、このような生産から小売までの一貫した体制が、家電量販店が牽引する現状の家電業界に対するアンチテーゼとして確立されること。これが業界変革の第一ステップであろう。 この動きに呼応するように、家電量販店では、デザイン家電に似せた雰囲気の商品が氾濫し始めるであろう。ナショナル ブランドであれ、家電量販店のプライベート ブランドであれ、あるスタイルが消費者に支持されることがわかれば、似たようなスタイルの商品が大量に流通し始めることは致し方ないことである。 リアル フリートのようなデザインを重視したメーカー(以下、デザイン家電メーカーと呼ぶ)は、この動きに巻き込まれないように、よりデザインや素材のクオリティを向上させ、差別化を図り続けていくことが必要となる。 このように規模の小さいデザイン家電メーカーが、その機動力を生かして消費者の生活を豊かにするより良いデザインを追及し、大手メーカーがその中から消費者に支持されるスタイルを汲み上げ、雰囲気の似た廉価版をボリュームゾーンの消費者層に向けて投入すると言った構造が生まれること。この中で、家電業界全体のデザインのクオリティが向上していくこと。これが家電業界変革のための第二のステップであろう。 確かに、家電量販店という業態は今後も主流であり続けるし、大手家電メーカーがその存在に頼りながら、毎年、大量の製品を製造し続ける消耗戦の構図は今後も変わらないかもしれない。その意味で、現在の大量生産・大量消費を基盤とした家電業界の体質自体を変革することは不可能であろう。 しかし、創り手の思いのつまった個性的な家電が世に普及し、消費者の一人一人が自分のライフスタイルを考えながら、自分の好みにあった家電を選択できるようになること。それにより消費者やメーカーのデザインやライフスタイルに対する感受性が向上すること。文化の成熟を考える上で、この意味は決して小さくない。(以下続く) (c) 日本総合研究所
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