ビジネスとデザインの諸相――家電業界の場合――(5)(前回はこちら)
6.大手家電メーカーへ期待するもの ものづくりに対する熱い思いを抱きながら、現状の家電業界の構造に限界を感じているならば、大手メーカー各社はスピンオフにより子会社を設立し、流通に支配されずにより良い家電をじっくりと作る体制を構築すべきである。そして、これら各子会社がリアル・フリートも含め、共同で流通を再編していけば良い。 自社商品だけを扱う代理店網を構築するのではなく、各社のデザイン家電を扱うセレクトショップとしていくのである。各社が独自の個性ある商品を作り、それを自信を持って消費者に選んでもらう体制が実現すれば、消費者はデザインに対する感度があがるだろう。 大手メーカーは子会社であるデザイン家電メーカーにデザイン面での冒険をさせることで、消費者の嗜好を汲み上げることが可能となる。ここから得たエッセンスを、家電量販店向けの大量生産モデルに反映させて、生産・流通していけば良い。 このような体制が出来上がれば、有能な工業デザイナーに対する需要が高まることから、建築や工業デザインを学んだ人々の活躍の場ができるだろう。デザイン家電市場での経験を積んだ彼らが、家電に留まらず家の中に関わる商品の全てをデザインし直していく。国内で市場が飽和すれば、海外に輸出していく。 このようにすれば、日本にもものづくりの文化が生き続け、欧米に負けないデザインを海外に誇れる国家となるだろう。 受け手が成熟しない限り、日本におけるデザイン文化の向上は起こりえない、というのは簡単である。しかし、創り手が自信のあるものを作り、世に問い続けていかない限り、結局、受け手は変われない。現状の構造ではつくりたいものがつくれないならば、現在の主要市場ではないところにターゲットを求めていくべきである。 市場に見合う規模の組織にすれば、十分にビジネスとして成り立つのであるから。 真に良いデザインには人の心を豊かにしてくれる機能がある。毎日目に触れる家電だからこそ、良いデザインのものが欲しい。毎日の生活を少しだけ楽しくしてくれるような家電が増えて、多くの人がデザインに対する認識を深め、結果として、日本のものづくりとデザインの文化が向上することを願ってやまない。 日本の家電メーカーは世界でも最高水準の製造技術を培ってきた。だからこそ、今後とも世界に誇ることのできるものづくりの文化を生み出していって欲しいと願っている。 デザイナーの原研哉氏は、「デザインとは、ものづくりやコミュニケーションを通して自分たちの生きる世界をいきいきと認識することであり、優れた認識や発見は、生きて生活を営む人間としての喜びや誇りをもたらしてくれるはずだ」と言っている(原研哉、2003年)。 また、筆者が敬愛するイタリアの工業デザイナー、エットレ・ソットサス氏は、「デザインすることは人間を幸せに居心地良くすることだ」という意味のことを述べている(佐藤和子、2001年)。どちらの言葉にも深い真実が宿っている。 (c) 日本総合研究所
参考文献1.池谷裕二、糸井重里著『海馬/脳は疲れない』朝日出版社(2002年) 2.半沢努著『家電量販店業界の現況〜過剰店舗がもたらす低収益体質〜』三井トラスト・ホールディングス調査レポートNo.37(2003年) 3.クレイトン・クリステンセン著(玉田俊平太監修/伊豆原弓訳)『イノベーションのジレンマ−技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社(2001年) 4.ジョージ・ストーク・Jr.、アラン・M・ウェバー著(根本政信訳)『日本企業に迫られる時間競争からの脱却』ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー1993年11月号 5.原研哉著『デザインのデザイン』岩波書店(2003年) 6.クレイトン・クリステンセン著(玉田俊平太監修/伊豆原弓訳)『イノベーションのジレンマ−技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社(2001年) 7.原研哉著『デザインのデザイン』岩波書店(2003年) 8.佐藤和子著『「時」を生きるイタリア・デザイン』TBSブリタニカ(2001年)
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