量子状態を使った通信路とその容量について■ 量子情報通信
現在コンピュータを使った情報通信というと、インターネットで利用されている IP 通信網を思い浮かべる人が多いであろう。これは、0と1の数字の並びを何らかの電気信号に変換して通信を行うものである。これには、例えば電流や光を通す・通さないといった制御を0と1に対応させるものがある。これは微視的に見ると、電子や光子のような素粒子が非常に多く集まったものがひとつの0または1に対応していると思うことができる。 それに対して、素粒子ひとつひとつに情報を付加させて通信しようという研究が進められている。そうすることにより、量子暗号という安全性の高い暗号が利用できるからである。 従来の暗号は、素因数分解などの数学的問題の計算困難性を利用したものであったが、量子暗号によると物理的に暗号の強度が保証されるようになる。ある数学的問題を解くのが難しいのは、その問題を解く手法が発展途上だから難しいという可能性がある。 新たな定理の発見やコンピュータの処理能力の向上により、従来困難とされた問題が簡単に解かれる可能性も考えられる。その一方、物理法則により暗号の強度が保証されれば、比較的普遍性の高い強度が得られたと考えることができる。 ■ 量子通信の容量 一般に通信路の容量を正確に見積もることは重要な問題である。近年におけるネットワーク機器の発展は、通信路容量の計算に関する数学的な理論の発展に因るところも大きい。古典的通信路では、0と1がある確率でノイズにより入れ替わるという数学的モデルを仮定し、そのモデルの下での通信容量は Shannon により示された。 量子通信路の容量には、Shannon の理論はそのままでは適用できない。理由としてノイズのモデル化が、古典的通信路のように離散的に考えることができないことがある。量子通信路で送られる量子状態は、連続的なパラメータによってのみ定式化可能である。その数値的計算には複雑な最適化問題の計算が必要となる。 量子の場合にさらに問題を難しくしているのは、エンタングル状態(量子もつれあい状態)の存在がある。エンタングル状態は古典的な符号では表せない状態であるため、この存在が通信路にプラスの影響を与える可能性があるのだが、実際のところはまだわかっていない。現在このエンタングル状態が容量を大きくする方向に働くという例は見つかっておらず、その数学的裏づけも得られていない。今後の研究が待たれるところである。 加藤公一 日本ユニシス株式会社 先端技術部 研究員 |