Web2.0 と Linux コモディティところで、そもそもなぜ OSDL のディレクタが Web2.0 について書くのか、不思議に思う人もいるだろう。
実は、Web2.0 で何が一番衝撃的だったのかというと、OS に対して問題が提起されたことだ。OS が OS ではない、OS の枠を超えたところで、インフラが進化していく、これは Web2.0 のもうひとつの側面だ。 Web2.0 の象徴的存在である Google が支援している100ドル PC の OS も実は Linux らしい。これは面白い組み合わせだが、100ドル PC は PC ではない。 あえて言えばブラウザマシンだ。Linux が注目されるのはうれしいが、主役は OSとしてのLinuxではなくブラウザなのだ。 ■Web2.0 は OS 自体の再考を促す 少し OS について、考えてみよう。 OS というのはそもそも数値データを扱うために作られたものであって、足し算引き算、割り算掛け算はすごく得意だ。その後企業の OA 化が進展し、事務処理にも使われるようになり、テキストデータや DB などを処理するようになった。 このように OS は第二次世界大戦以降、約60年間以上をかけてゆっくりと成長してきた。 メインフレームも UNIX も、PC も Linux も例外ではない。 ところが、ついに、OS が見直され始める(かもしれない)という大変な事態になったのだ。このような事態を引き起こしたのは Web2.0 だ。 今や、クライアント側のインフラは劇的に変化しつつある。 サーバー側にも、仮想化やブレード、そしてグリッドやファブリックなどの技術的な話はあるが、Web2.0 で特に問題になっているのはクライアント側のインフラだ。 Web1.0 以前は従来のインフラで十分だった。OS は Windows で事足りたし、その上でブラウザが動いていればよかった。ブラウザは Internet Explorer でも Mozilla でもよかったし、Firefox でもよかった。 ところが Web2.0 への流れが形成されてくると、クライアント PC のあり方が突き詰められ、OS も今のままでいいのか、という問題が浮上した。Web2.0 で OS の再考が促されているのだ。 これまでコンピュータシステムの中心だった OS が、まったく違うものに変貌するかもしれない、という状況に、60年以上にわたって OS を基本技術として考えてきた既存の IT 関係者は、もっと驚いていいはずだ。なぜ驚かないのか。事態を理解できないのか。 ■ソニーにはチャンスとなる IT の進化は2とおり考えられる。ひとつは PC が徐々に進化する方向だ。Microsoft にとっても Intel にとってもこれが一番望ましいものであり、Linux もその流れに沿って進化していけばいい。 ところがもうひとつの、現在主流になりつつある Web2.0 は、PC 自体が不要になるかもしれない流れなのだ。 これは、たとえば Intel に代表される PC 中心の企業にとっては非常に困った事態だが、 そうではない企業もある。ソニーなどはその典型的な例だ。 ソニーは、昔から継続して PC ビジネスをやっているように見えるが、実はそうではない。 VAIO は、「マグネシウムダイキャストボディ」などが売り文句の、目新しい技術と洗練されたデザインを特徴とする独特なものだ。Dell や IBM などの PC 製品とは全然観点が異なる。従来、コンピュータは、技術的な内部の性能が決め手になるが、ソニーは、どちらかというと、Apple に似たところがあり、技術以外のデザインなどを重要視している。この次にどういう製品を出すのか予想できないこともある。 ソニーは以前、FF(ファイナル ファンタジー)11 で、時代の流れから見て、当然ながらネットワークゲーム化しようとしたが、これは成功しなかったようだ。FF12では従来のスタンド・アロン型に戻している。しかし、ゲーム機のネットワーク化戦略は、現在の PCと明らかにオーバーラップしてくる。そうなったときに、どのような製品化を行うのか。実に興味深い。 ■IT の進化 ソニーの場合は、ゲーム機という特殊事情があるが、一般には、セットトップボックスとテレビを使った、PC 中心でないユビキタスを考える企業も多い。 しかし Intel としては、インターネットをテレビに組み込んでもいいが、PC はホームサーバーとして保持したい考えだ。 ということで現在は、ホームユーザーにとってはどういうインターフェイスが一番いいのかが問われる時点に来ている。その前提条件となっているのが、Web2.0 だ。 Intel の持つ影響力は強大であり、短期的には PC がしばらくインターネットの主流を占めるだろうが、長期的にはソニーの出方は注目に値する。ドラスティックに展開し、いいものが生まれる可能性はある。 Web2.0 の象徴的存在である Google は、どちらかというとソニーの方向に近い。 幸いにも Google は OSDL のメンバーの一員でもあるから、今後 OSDL の内部で彼らが意見を出してくれることを期待している。 ■Web2.0 と Linux オープンソース XML の進化、PHP、Perl、Pythonなどのスクリプト言語、Java系の環境 など、Web2.0 で脚光を浴びている技術が生み出すサービスを実現するクライアントは、いったい何がふさわしいのか、それは PC なのかそうではないのか、 Linux という OS を支援している側の人間としては、無視できない問題だ。 また、Google がいきなり持ち出したブラウザマシンが Linux で動いているとなると、 問題は非常に厄介だ。それはどういう意味なのか。彼らはたまたま Linux が自由に使える OS だから採用しただけなのではないか。 だが、Linux が自由に使える OS だったということに、実は重要な意味がある。 そもそも Linux オープンソースは、ソフトウェアのコモディティ化を目指していたのではなかったか。 現在、オープンソースコミュニティから生まれたソフトウェアは、企業の基幹系システムのみならず、一般ユーザー向けサービスにも多く組み込まれている。 しかし、流れはそこでとどまらない。 Web2.0 の現象面の特徴として前回コラムであげた、全員参加、コミュニケーションの双方向化は、Linux オープンソースの開発コミュニティで培われたものの拡大版だ、とも言える。 Web2.0 では、開発者ではない普通のユーザーが SNS や Blog サービスに参加する。 それだけではない。さまざまな企業のさまざまなサービスの下に、膨大な数のユーザーが参加するコミュニティが形成される。そこからまた、新たな広がりが出てくる。 主導権を握るのは、特定の企業やスター的存在の個人、特定のソフトウェアやハードウェアではない。そしてコミュニティのサービスを支える技術は、Linux オープンソースが生み出した、あるいはそれがきっかけで商用からオープンソース化した、コモディティソフトウェア/ハードウェアだ。 そのようにごく自然に広がっていくことこそ、まさに Linus の望んでいたことではないか。 ■新しい時代が到来する これまで、Linux オープンソースのコミュニティは、親 UNIX 的な人たちが運営してきた。 もともと UNIX にかかわってきた人たちが、UNIX に飽き足らず、たとえば Linus のようにスクラッチから OS を作り出した。 しかし、Web2.0 では、Google のような新しい企業、新しい人たちが主導しないと、 進化しない。 それは Linux、UNIX を捨てるという意味ではない。Linux、UNIX の基本的な役割は変わらないが、その上の新しい領域で、新しい技術を生み出さなければならない。 このようにして技術が進化していくということ、それらの技術の一部、コモディティとして Linux が普遍化すること、それはもともと Linus が期待していたものではなかったか。 Linux はこれまで、よくわからない側面があった。なぜものすごい速度でバージョンアップされるのか、なぜ、コードネームすらない茫漠としたものなのか。 だが Web2.0 になって初めて、それが何かを説明できるだけの具体的な材料が出てきた。Web2.0 はオープンソースの望ましい成果のひとつなのだ。Web2.0 を生み出すために、開発コミュニティによる膨大な数のソフトウェアの開発と世界中の開発者によるバグ修正、さらなる開発がなされてきたのだ。 最終的には、Linux はコモディティとして、Web2.0 以降の技術を支える土台となり、底に沈んでいくだろう。 ■人工知能と Web2.0 最後に、人工知能について触れておこう。 前回、 Web2.0 で Web が人工知能化する、と書いたが、AI(Artificial Intelligence)は一度挫折している。一時もてはやされたが期待通りに発展しなかった。そこで、AI はもう終わったと思われているが、実はそうではない。 AI に問題があったのではなくて、時代が AI についてこれなかったのだ。 まず、インフラが追いつかなかった。コンピューティングパワーが足りなかったのだ。 CPU 速度がだんだん上がっていって、16bit が 32bit になって、メモリが増加してディスク容量が大きくなって、という進化の速度では、 AI を一気に実現することはできなかった。 ところが、現在のインターネットの世界は、いつの間にかグリッド系の技術で、リソースを無限に使用できる可能性が出てきた。巨大なアプリケーションであっても、グリッドでコンピューティングパワーを集めて、有効に使えるかもしれないのだ。AI 実現のネックだった膨大な量のロジックの瞬時の処理、これが可能になるかもしれない。 たとえば、国内でも、2003年に理化学研究所が、 PC を1,024台(2048CPU)連ねて超高速の Linux 並列マシンを富士通から導入したが、将来は、ネットワーク上の CPU を何台でも使うことができるようになり、コンピューティングパワーに関してはもっと制約がなくなるかもしれない。 これは悪くない。あとはロジックの問題だ。 コンピュータは、数値データ、テキストデータ、逐次プログラム方式、いわゆるノイマン型でなくてもいいのではないか、という話がまた出てくるだろう。Linux、Unix もwindowsもすべてOSとしての処理単位は、バイト(= 1文字)である。 ところが、Web で重要なのは、必ずしも、1バイトという単位で測る必要のないデータも多い。音声や画像などのデータはバイト単位ではなく、ストリーミングとして直接処理して、最適化した方が効率がいいという考え方もある。 というようなことで、 Web を構築するのにバイト マシンである必要はない、と誰かが言い始めると、コンピュータ自体もそうだ、という話になる。さらに言うと、0と1のバイナリー(2進数)よりも、マイナス1などを加えた、トライ ステート(Tri-state:3進数)の方が効率がいいと言う人もいる。 半世紀以上にわたって積み重ねられてきた技術が、一気に新しい技術にシフトする、あるいは共存する可能性が出てきた。これもまた、Web 2.0 に関係しているのだ。 OSDL における Linux への貢献として、 Web2.0 から人工知能にいたる技術の流れを取り込み、さらにそれを広げていくという役割を担えるかもしれない。Linux オープンソースが契機となり広がった Web2.0 が、将来的には人工知能の実現に手を貸すこともありうるだろう。さまざまな技術が同じような環境で疎結合し、どんどん拡大する、これはまさに Linux オープンソースの真髄だ。 記事提供:OSDL(Open Source Development Labs)米国・日本 |