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2009年7月4日
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行政ICカードのビジネス・モデル

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行政ICカードへの期待が高まっている。各地で実証実験が実施・計画されており、 認証システム等の基幹システムも最終調整段階に入っているようである。 また、カード・リーダー等の周辺機器・システムの開発も進んでいる。しかし、その一方で、 「本当に事業として成り立つのか?」という不安を抱く関係者も多い。

行政ICカードとは、例えば、住民基本台帳などのデータを搭載することにより住民票の交付等のサービスを コンビニの端末等でも行えるようにしようというもので、いわゆる「電子自治体」の目玉の一つになっている。

行政ICカードのビジネス・モデルは、(1)カードの製造・納入、(2)運用システムの開発・納入、 (3)カードの交付・データ更新、の3時点で考えられる。このうち、(1)はカード・メーカー(印刷業等)、 (2)(3)はベンダー(電機電子等)のビジネス・モデルである。

関係者の話を総合すると、行政ICカードの場合、(1)のカードの製造・納入というビジネス・モデルは 基本的に問題ないようである。当局から一層のコスト削減を求められているというハードルがあるが、 そのためにはロット単位での生産が必須の交換条件であり、さらに「行政サービスの一環」として実施する以上、 行政があらかじめある程度のストックを抱えて運用することが予想されるからである。

問題は(2)(3)のビジネス・モデルである。まず、例の「安値受注」の問題もあり、関係者の間では、 (2)の運用システムの開発・納入における大きなビジネス・モデルは期待できない、という見方が定着しつつある。 このため、業界では(3)の手数料収入との抱き合わせでビジネス・モデルを構築しようという絵を描いている。 いわゆる「携帯電話型ビジネス・モデル」である。このモデルが成り立つためには、 行政ICカードが携帯電話並に普及し、かつ、機種やデータの更新がこれも携帯電話並に行われ、 さらに、それぞれで手数料収入が得られなければならないが、 携帯電話と違いコンテンツの限られる行政ICカードでは、まず、普及において「販売」という形態は難しい。 このため行政サイドでは、「無料配布」を考えている。事業者としては、 利用者が直接購入しようが行政が払ってくれようが構わないのであるが、 行政コストに敏感になっている市民からの疑義・反発は必至であり、 最低でも1枚1,500円といわれるICカードを無料配布する際の「原資」について、 行政コストの削減等との関係を行政が説明しきれるかどうかがポイントとなろう。 さらに、仮に無料配布が行われたとしても、機種やデータの更新が携帯電話並に行われるとは考えにくいし、 そこで利用者が手数料を払うことを期待するのは「皮算用」に過ぎるというものであろう。 他の収益源としては、各種証書の交付手数料を行政ICカードの運用原資として運用者(民間) に委譲することが考えられ、筆者の試算によると、 例えば近畿圏市町村における各種証書の交付手数料は年間600億円以上と推計されるが、 これには行政職員の削減等も絡んでくのでそう簡単には実現しそうにない。

このように考えてくると、現時点では、 行政ICカードがビジネス・モデルとして成立する可能性は極めて低いといわざるを得ない。

唯一(?)の可能性として、 行政サービス以外の機能を搭載することにより「売れる」カードにしようという動きもあるが、 セキュリティ上の問題が大きく、現状ではメリットよりリスクの方が大きいといわざるを得ない。

結局、市役所の一室に埃を被って山積みになっている行政ICカードの姿が浮かんで仕方が無いのであるが、 いずれにせよ、行政ICカードのビジネス・モデルについては、今一度、 民間事業者が主体となった冷静な議論を行うべきである。そうすることで、 もっと市民のニーズや選択し得る要素技術等に目を向けた合理的なシステムが見えてくるであろう。 それとも、不安を抱えながらも相変わらず横並びで横断歩道を渡ろうとする業界には、 行政ICカードは、収益が保証された公共事業とでも映っているのであろうか?


太田 康嗣(おおた こうし)

株式会社 日本総合研究所 研究事業本部
地域経営クラスター クラスター長 主任研究員

専門分野: 都市・地域経営論、行政マネジメント、IT政策


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