日本ではタレントの覗き見行為が話題となっているが、米国ではFBI
の覗き見技術が、ちょっとした話題となっている。この FBI の覗き見技術とは、容疑者のパソコンに侵入し、容疑者のキーストロークをこっそりと記録し、当局に送信するものだ。
すでに、FBI は、「Key Logger System」というハードウエアとソフトウエアから成る「ソリューション」を開発し、実際に使用している。このことは、違法なギャンブル行為と高利貸し業務を行ったとされる、Nicodemo
S. Scarfo Jr. 容疑者に対する裁判で明らかとなった。(既報記事) もっとも、この裁判で
FBI は、機密情報手続法(CIPA)を盾にし、「Key Logger System」の詳細は国家安全保障上公開できないと抵抗しているのだが…。
この「Key Logger System」に加え、今度は、「Magic Lantern」という覗き見技術を FBI が開発中であると、11月下旬、米メディアの
MSNBC が暴露した。この「Magic Lantern」は、トロイの木馬プログラムの一種で、容疑者のパソコンにメールなどで送り込まれ、パソコンのハードディスクに潜み、容疑者がキーボードで打った内容をこっそり記録し、外部に送信するプログラムだとされている。まさに、「Magic
Lantern」という名の通り、光を当てて絵や物を大きな画面に映し出す「幻灯機」のような機能を、容疑者のパソコン上で発揮するらしい。
MSNBC の報道は、当局の消息筋の情報に基づいた未確認の情報であった。しかし、12日になり、FBI のスポークスマンである Paul Bresson
氏が、「(Magic Lantern は)まだ実験段階の計画であり、開発中であるため、詳細は語れない」と発言したため、FBI が「Magic Lantern」の開発を行っていることが公に確認された。
FBI が(FBI にとって)目新しい技術を使って、容疑者に対し覗き見捜査を行う計画自体は、あまり驚くようなことではない。FBI は、常に新しい技術や方法を利用して、捜査の質を向上させようとしてきた。
むしろ、この話題で注目に値するのは、「Magic Lantern」に対するアンチウイルスソフト各社の微妙な立場であり、また、米国製ソフトの市場独占が、米国以外の国々の国家安全保障に及ぼし得る脅威である。
AP電によると、ウイルス対策ソフト「McAfee」を販売している
Network Associates 社は、自社のソフトでは
FBI のプログラムを探知したり、容疑者にプログラムの存在を警告したりしないことを FBI に保証したとされる。
このAP電の報道に関しては、当の Network Associates 社が、「当局と接触を持ったことは全くない」と否定し、また、他のアンチウイルスソフト各社も、FBI
に「自主的に協力」することはありえないとのコメントを出している。
しかし、これら各社は、オフィシャルな形で否定した訳ではない。また、FBI に「自主的に協力」することはないとしても、FBI などの政府機関から要請があった場合、あるいは、法的に強制された場合の対応に関しては、明言を避けている。むしろ、Network
Associates 社のコメントでは、「米国のあらゆる法律を遵守する」としていることから、米国国内法に基づき、FBI から対応が強制された場合には、少なくとも、McAfee
社製アンチウイルスソフト、そして、おそらくは、米国製アンチウイルスソフトをインストールしている米国のパソコン全てが FBI の覗きに対し脆弱となってしまう可能性が存在する。
もちろん、FBI は「Magic Lantern」の使用にあたって、適切な法的手続きと、限定された使用を求められるのであり、容疑者以外への使用といった濫用の可能性は非常に少ないものと思われる。実際、「Key
Logger System」では、容疑者が用いたパスワードの取得だけを目的として使用されることが認められ、パスワード以外のキーストロークを記録することさえ一切認められないという厳しい条件が課せられた。
さらに、その「Magic Lantern」が果たしてどれくらい優秀なプログラムかも未知数である。アンチウイルスソフトが防御しなくても、容疑者のパソコン環境によって機能しない可能性もあり、また、アンチウイルスソフト以外の方法で容疑者が気づく可能性も大いにある。
しかし、一般のインターネットユーザーの視点からすると、この FBI 製覗き見プログラムと、その運用にあたっての官民協力というシナリオは、非常に気味が悪いのではないだろうか。どうせ購入するのであれば、FBI
に加担するアンチウイルスソフトは避けたいのが消費者心理であろう。
そこで、気になるのは、米国のアンチウイルスソフト会社の日本の子会社や、米国で大きな市場シェアを獲得している日本のアンチウイルスソフト会社がリリースしているアンチウイルスソフト、あるいは、アップデーターの内容である。ウイルスに国境などないに等しいのだから、基本的に、どのアンチウイルスソフトでも、世界中のウイルスやワームが駆除対象となり、機能は世界各国共通なはずである。
仮にそうであれば、米企業が FBI に協力した場合、世界中のアンチウイルスソフトが一斉に、FBI の覗き見プログラムに対して脆弱となるのだろうか? あるいは、日本のアンチウイルスソフト会社は、FBI
の協力に応じないのであろうか? はたまた、米国政府が、米国の「技術規格」を満たさないソフトは米国市場での販売を許可しないなどという、お決まりの身勝手な論理を持ち出し、FBI
に従わないで済むはずの日本のアンチウイルス会社に圧力をかけてくるのだろうか? あるいは、情けないことに、米国政府が日本政府に「強制」に近い「要請」を行い、日本のアンチウイルスソフト会社が日本政府の「要請」にやむなく従うのであろうか?
この FBI の覗き見プログラムは、アンチウイルスソフト会社の対応如何により、国境を越えるスパイプログラムにもなりかねない。日本政府は、こういった海外からの覗き見の脅威に対し、どう対応するのか? 「世界標準」という名の「米国標準」に従うメリットは多々あるものの、国家安全保障政策の一環として、また、国民のプライバシーを防衛するという意味においても、日本政府は、これら海外からの新種の脅威に対抗できるだけの最低限の技術力と影響力を自ら保持しつづけると同時に、国内のソフト産業に、これら新種の脅威に対抗できるだけの技術力、独立性、そして、ある程度の市場規模を持たせるため、自らイニシアチブを発揮する必要があるだろう。
IT政策も日本国内だけでなく、国際関係の中で考えてみる必要もあるのではないだろうか?
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