医療の提供者はどうあるべきか?(1)
医療サービスは他の財・サービスとは異なる特殊なサービスであるため、一般の市場原理には従わない、
また従わせるべきではないと言われる。
その理由は、 生命に関わるサービスであるためその提供に最大限の公平性が求められること、 高度に専門的なサービスであるため消費者が提供者よりも劣位な立場に追いやられていること、 消費者の肉体的・精神的または経済的な獲得能力が低下したときにその必要性が最も高まること、 などが挙げられる。 こうした特殊性のため、わが国においては医療の提供主体となる病院・診療所は、 市場形成において最大の要素である価格の決定を公定制度にほぼ完全に委ね、 また業務範囲や人員基準や施設基準などこと細かな数多くの規制によって、 一方では厳しく管理され、一方では手厚く保護されている状態にある。 中でも医療法の規定に謳われている「非営利性」については、 「医療の営利・非営利性の問題」としてかねてから多くの議論を呼んできており、 未だ必ずしも明確な回答は得られていない。 医療の非営利性がなぜ重要な問題かというと、どういった主体に医療サービスの提供を担わせるかによって、 費用負担の構造が根本的に変わり、結果として医療提供の姿そのものが変わってくるからである。 もし医療が純粋に公的サービスであるとするならば、その運営は全てパブリック・セクターに任せ、 その費用は全て税で充当するのが正しい姿であろう。 ところが現状では、病院の中で国・地方自治体が経営しているものは病院数で15%程度にすぎないし、 診療所はほとんどがプライベートセクターに任されている。すなわち、 病院は役所や警察や消防といったサービスと同種のものではなく、 学校や保育園に近い形態として位置づけられていることになる。 昨今の、国のいわゆる構造改革の議論の中では、 医療保険財政の破綻危機を回避するために医療保険制度の改革については多々議論されているが、 病院の経営形態の問題についても、これからの日本の医療のあり方、 すなわち高齢化や疾病構造の変化などに対応できる医療システムの将来像を考える上では、 抜本的な改革を考える必要があるのではないだろうか。 本稿では、「医療の提供者はどうあるべきか」という命題を考える上での議論の整理を目的として、 わが国における医療提供者をセクター別に概観し、それぞれのセクターの現状と課題を把握していきたい。 はじめに対象とするのは、パブリック・セクターが直接医療を提供する形態、すなわち国公立病院である。 厚生労働省の「医療施設調査」によると、医療機関の開設者の分類は「国」「公的医療機関」 「社会保険関係団体」「公益法人」「学校法人」「医療法人」「会社」「その他の法人」「個人」となっているが、 このうち、経営面を中心に据えた医療提供者としての議論に乗せるべきなのは「国」のうち「厚生省」、 「公的医療機関」のうち「都道府県」「市町村」であろう。 これら国公立病院はわが国における近代医療の提供者として歴史的にも重要な役割を担ってきた主体だが、 近年ではその赤字体質や、官と民の役割の明確化という観点から、 往々にして批判的議論の対象となっているからである。 なお一言で国公立病院といっても、国立病院、都道府県立病院、 市町村立病院の置かれている状況は大きく異なっているため、それぞれを分けて考察することにする。
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