環境技術−IT の環境問題
1.情報システムの環境問題
「環境問題」というと、環境公害問題から始まった地球環境科学や環境保護運動、環境変化への人や組織の対応を主題とする行動科学・情報環境学、人間と環境との相互作用に視点を合わせた人間工学・認知工学などが思い浮かぶ。これらの知見は、e-Japanにおける技術アセスメントや環境アセスメントなど個別の要素技術あるいは境界領域技術として広く応用されているが、ITを応用するという観点からのアプローチは多くはない。 さて、高度情報化社会の特徴は、構成要素のすべてが分離不可分なデジタル情報の関係として相互に結びついている点だ。それを、情報システムや情報技術、人間、生物といった主体があって、主体と切り離されたかたちで「環境」という全く別のもの、対立的なものがあると考えるやり方には無理がある。望ましいのは、生態学的な環境の捉え方、つまり生物と環境を一体のものとして捉えるやり方、つまり、主体を包む外界の状況のすべてを「環境」として視野に入れるやり方である。 この観点から、環境という言葉の本来的な意味にたち返り、e-Japanの情報システムとITを環境との関係において捉え直すことによって、変化する環境と合わないものを適切に判別、切り捨て、再構成し、望ましいあり方(Being)、成り立ち方(Becoming)、振るまい方(Behaving)を導出できると考える。 情報技術について言えば、日本ではITと略称するが、国際的にはICT(Information & Communication Technology:情報通信技術)という用語が使われる。コミュニケーションとは、単なる情報を仲介するネットワーク機器や装置といった通信手段だけではなく、人=機械=環境間の相互作用の関係を含意しているもので、日本ではこのコミュニケーションに対する関心が相対的に低いことを図らずも示している、という指摘があたっている。 2.情報システム技術の恣意性の罠 技術(や方法、道具)の高度化は、人間の進化、あるいは豊かな社会においては必然である。大規模な社会組織や事業組織の出現は、相互の限られた活動資源の確実な調達を困難にし、環境の多様化、環境への依存度の増大をもたらした。組織は「計画化」すなわち組織の意思決定の高度化によってこの不確実性を回避・軽減しようとするが、このために情報要求(情報依存)の増大という事態を招いている。 情報システムには、コンピュータの持つ強大な情報処理能力(データの伝達・保存・理解の能力)を中心に、意思決定のための情報を情報資源として組織化し、適時・的確に供給することが求められる。従って、情報システムは巨大化・複雑化・多様化せざるをえない。システムの生産力の総体と安定性は、構成する要素が多ければ多いほど高い。複雑さと多様性こそがシステムの調和を保ち、環境変化に有効に適応するための条件である。従って結果として生み出される制御・統制の困難さや脆弱性、不都合の発見の遅れや修復コストの増大、保守・拡張・習得・適用・実践の困難さ、そして環境との不調和を上手に管理する技術が必要となっている。 事実は、自らの組織資源を総動員しても事態に対応し切れないことが、しばしばである。 そして組織は環境不適合、適応不適合に陥り、衰弱する。 困難さの原因は現在の技術の不完全さにもある。情報技術分野の現在のパラダイムの多くは:A)対象とするシステムの変化の多様性を充分に考慮していない、B)システムそのものの構成要素を主として扱い、環境の要素を意識的に除外することによる恣意性の罠を避けられない、ものだからである。 これは、技術分野の多くが分析的手法により問題解決の単純化・高度化を目指すために、情報システムの環境を人工化する結果もたらされるもので、技術自身の効用は顕著であるものの、情報システムを対象とする技術に固有の問題を回避できないことから発生する: A)技術分野間の空白地帯の出現、B)システム化にあたって主観的に切り捨てられる環境要素の存在、C)人間行動を単機能とみなす、単純化の弊害。 逆説的だが、環境の制約が強ければ強いほど、人あるいは組織の活動は創造性を発揮できる。環境と正面切って向き合えるからだ。 この「情報システムの環境問題」すなわち「ITの環境問題」を上手に回避する手だてが、昨今のe-Japan計画推進には求められているようだ。
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