ITのビジョンとトレンド
1. ビジョンと幻想
e-Japan におけるITのインフラ整備は着実に推進されているものの、本来取り組むべき行政の BPR や国民サービスの向上などの進展は鈍いとされる。縦割り施策の寄せ集めとの批判もあり、グランドデザイン、つまりビジョンの欠落が指摘される。ITインフラが整備された後は、それをいかに利活用するかに重点が移る。 ビジネスの世界では、顧客の求めるのは問題解決という付加価値サービスであり、トータルなサービスであって、個々人の技術力や技能、知的能力というわけではない。そこで可能な人的資源を効果的に活用し、サービスとして統合する「ビジネス戦略」が企業の成否を分けることになる。 戦略に必要なのは「ビジョン」だ。ビジョンとは、「特定のビジネス分野や行政分野において、個別かつ具体的に吟味することが可能な問題領域(ドメイン)に関する基本的な実現の方針や必要な資源の基本構造を表現するもの」である。 多くのビジョンが「夢」や「希望的観測」から始まるわけではない。破滅や撤退に到るシナリオや待避のシナリオなど、実行が忌避される負のビジョンがある。負のビジョンは「暗い」ことから人々に好まれず広く認知されることも少ないが、大規模組織における危機管理に不可欠な戦略策定ステップとして、欧米の国家や大企業はこれを得意としている。日本では関心を惹くことが少なく、好まれもしないが。 ビジネスや行政の世界では、財としての経営資源の獲得・配分や運用の手順までを考えることで、ビジョンを現実とすることができる。かたわら負のビジョンや、問題学や失敗学から派生する「形成されるビジョン」では、描かれたシナリオの可変要素に働きかけることで、ビジョンの実現を回避したり、問題解決の道筋を見つけたりすることができる。 ビジョンから実行手順としてのシナリオが描かれる。理路整然としたビジョンは実現の可能性が高いと評価されがちだが、ここに見せかけやまやかし、幻想の入り込む余地が生じる。ビジョン作成の当事者にとっては、描くイメージが実態であると信じたいが故にかえって現実と異なるイメージを鮮やかに描ける。苦境におけるビジョンの幻想性が高いのはこの理由による。 ただ、幻想がビジョンの実現につながることもある。考慮しなかった環境変化、外圧、未知の要素、見失っていた組織の活力が忽然と表面に浮き出ることがあるのだ。 2. ビジョンとトレンド ビジョンとの対比で、トレンドを理解しよう。トレンド(動向)は、しばしばマスメディアのいう「ニュース」、すなわちできごとやファッションとかの「こと(驚き)」の集積だ。ニュースやファッションは、技術の将来や流行、「最先端」を報じたがる。ニュース価値がある技術とはまだ「未成熟」の技術であって、いつでも判断基準を変えられる点に特徴がある。変化を強調することによって、驚きと不安と、不確実性を呼び起こすことで反響を狙う。 トレンドが反響を呼ばないからといって、ニュース性が薄いわけではない。しばしばビジョンとトレンドが奇妙に一致することがあり、この場合新奇性とニュース性が減じられるために、感性に響かないのだ。 トレンドやニュースは、理想すなわち実現すべきビジョンとか目的とかいった「もの(原理・原則)」にはさして興味を示さない。米国連邦政府が推進する次世代電子政府実現の方法−Federal Enterprise Architecture−は CALS/EC を正当に引き継ぐものだが、これがニュースで報じられることはほとんどない。 かたわら標準とか規制(=コード)に興味を持つ。理想は私たちがそうなりたい、そうしたいと思っていることであり、標準はすでにしていること、すなわち世の中の平均的な行動であり流行りである。理想は変化を拒むもので、ゆっくりとしか変化しない。標準は激しく変化し、トレンドとしてニュースにできる。 ビジョンの実現にトレンドが寄与する余地はあまりない。せいぜいが実現の過程で出会う困難を予測させる道しるべでしかない。かえってトレンドへの依存は、ITを利用する側の要望の看過や技術への過度の期待を生み出すことから、ビジョンの実現をゆがめる。 実現すべきビジョンには理想がある。自己の、組織体の、さらには国としての確たるアイデンティティ(主体性)がある。アイデンティティとは自己の存在理由、他在、守るべき不動の価値であって、少々の環境変化や変動では変化しない。だからトレンドに影響を受けることは少ない。同様、忌避すべきビジョンにも確たる変動への意思がある。 こう理解すれば、理想を追い易い。e-Japan についていえば、アイデンティティは国民一人一人のビジョンだ。政治機関はわれわれの代表たる代議員の集まりであり、行政機関はわれわれの公僕たる官僚の集まりだ。だから彼らには、ビジョンの実現(または忌避)と希望を託すだけの価値がある。 もし期待に添わなければ、補正すればよい。英国の議会制度にならっても良い。e-Japan のアイデンティティ確立のために、一人一人の自覚と参画が必要とされている。 関連記事 関連テーマ 最新トップニュース
|
なぜ勝った? 世界No.1シェアをつかんだ“Windows”(9月5日 11:00)
ソフトバンクモバイル、8月の純増数は約16万件――携帯電話契約数に関する速報(9月5日 14:40)
【今週の Web ミミズク】Google と Apple でにぎわうニュースサイト(9月5日 16:50)
TCA、8月度の携帯契約数を発表――ソフトバンクが16か月連続純増 No.1 に(9月5日 18:00)
読者が迷惑メールと認識する時…(9月3日 10:00)
私の周りは“geek out”している人ばかり(9月5日)
|