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2004年1月14日 00:00

P2P の誤解:デジタル化と音楽ビジネスの行方(続き)

前回コラムからの続き)

■顧客と業界の WinWin

つまり、顧客に低価格で販売しても、 中間流通コストを削減することで得られる利益は相対的に大きくなる、 というビジネスモデルが可能になるのです。 ここに、 アップルやマイクロソフトなど数多くのプレーヤーがデジタル音楽配信ビジネスに注力する理由があります。

  他の業界での具体的な例をあげましょう。 例えば、オンライン証券があります。

窓口や電話などの証券マンが仲介する取引が中心であった証券取引の世界で、 手数料で大きな価格破壊を起こしたのがインターネットによるオンライン取引です。 松井証券やマネックスなどのオンライン証券会社は、 顧客が直接証券をインターネット経由で取引できるシステムを構築することによって、間に存在した事務作業・証券マンなどが介在しない非常に低コストな仕組みを作り上げ、これまで考えられなかった格安の手数料を実現しました。

重要なのは、これにより新たな市場が切り開かれた点です。 単純に手数料の値下げ競争だけが発生したのであれば、 旧来の証券会社が死滅し、 低価格の手数料の証券会社だけが生き残るという図式になるはずですが、 現在のところそうはなっていません。 インターネット経由のオンライン取引は、 格安の手数料と同時に証券取引の敷居を下げるという効果をもたらしました。

そのため、これまで証券取引をできなかった、 もしくは興味がなかった新たな顧客層が市場に参加したり、 デイトレーダーと呼ばれる一日に何度も取引を繰り返すような新たなプレーヤーを生み出すことになり、 証券取引に新たな可能性を生み出しています。 

もちろんある程度の証券会社は淘汰されましたが、 生き残った証券会社と顧客との間には WinWin の関係が構築されているわけです。

■音楽業界でも WinWin は可能か

実は音楽業界においても、 デジタル化による新たな市場はすでにいくつも生み出されています。

例えばカラオケがあります。 過去カラオケの中心がレーザーディスクだったのを覚えていますか。 レーザーディスクの配送には物理的なコストがかかるため、 当時は新曲をカラオケで歌えるようになるまでにかなりの時差がありました。 それが ISDN のような回線でデジタル配信されるようになり、 今では最新曲がすぐに歌えるのは当然のことになっています。

また、携帯電話の着メロも、 デジタル配信により生み出された新たな市場です。 ユーザーひとりあたりでは月数百円の安価なコンテンツですが、 携帯電話のコンテンツ市場ではトップを争う優良市場で、 現在の最新機種では、非常に良い音質で音楽を聴くことができます。

つまり、 デジタル化が進んでもこのように市場が広がる可能性は存在するわけです。

P2P の代表格であるナップスターが音楽業界の訴訟攻勢で苦境に追い込まれる中、 その音楽業界の中心プレイヤーであるドイツのメディア大手 Bertelsmann がナップスターを買収した背景には、こういった目論見があったと考えられます。 (ただし、Bertelsmann はその後ナップスターを Roxio に売却しています。)

■先行するアップル

日本にとっては残念なことに、 パソコンへの音楽のデジタル配信ビジネスは米国で急速に進展しつつあります。

エポックメイキングな出来事となったのが、 米 Apple による iTunes という有料音楽配信サービスの開始です。 当初はこのサービスも、 他の音楽配信サービスと同様伸び悩むだろうと多くの専門家が指摘していましたが、 サービス開始の4月末から1週間で100万曲のダウンロードを記録し、 昨年末までに2500万曲ダウンロードという成功をあげています。

これに呼応するように米国では、 Amazon.com や Buy.com、Microsoft など、 複数の事業者が参入を発表しており、 2004年には激しい顧客獲得合戦が繰り広げられることが予想されています。

大手音楽事業者との訴訟合戦で廃業に追い込まれた Napster も、 新しい資本の元で生まれ変わり、 新たにサービスを開始しようとしています。

もちろんこの流れが、 既存の CD 流通を中心に収益を得ている音楽事業者にとって脅威であることは間違いありません。 ただ、そのこと自体が直接音楽ビジネスの衰亡を示しているのではないことは、 ご理解いただけると思います。

次回はもう一つの悲観論の源泉になっている、 「無料サービスに有料サービスが勝てるか」という点を考えてみたいと思います。

(執筆:徳力 基彦)


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