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Webテクノロジー 2005年9月9日 09:00
Webテクノロジー・バックナンバー
マイクロソフトの“後押し”で生まれた、OSDL の“Center of Gravity”

著者: 平野正信 プリンター用 記事を転送
2005年9月9日 09:00 付の記事
国内internet.com発の記事
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今回は Linus の話をしよう。

Linus がいることが、実は OSDL の非常に大きな特徴となっている。逆に、Linus のいない OSDL はわかりづらい。

Linus がまだいない最初のころの OSDL は、単なる業界団体というイメージしかなかった。ある人から見ると、あまりぱっとしない、 どこにでもあるような、「Linuxでエンタープライズをなんとかしたい業界団体」のように思われていた。

そもそも Linus の OSDL 入りの最終決断を促したのは、2003年6月に Microsoft の CEO、 Steve Ballmer が全社員に対して出した、「オープンソースは怖くない、あれは幻想だ」という内容のメールだと言われている。

Steve Ballmer はメールの中で、「オープンソースには“Center of Gravity”がない」と言った。 現在、OSDLで使っている“Center of Gravity”という用語はそこからいただいたものだ。

Steve Ballmer はさらに、「Linux オープンソースというのはばらばらである。Microsoft のような中心的なわかりやすい存在がない。そんなものの将来を語りようがないではないか。 Linux オープンソースというひとつの組織なんてないのだ」と全社員に語り、 「余所見をするんじゃない、(Linux は)恐れるに足りない」と言い切ったわけだ。

こういうメールを全社員に出したわけだが、これを社外に持ち出した社員がいて、 ほどなく Steve Ballmer のメールは Web で公開された。

それを読んだ OSDL のある関係者が、「それでは OSDL が“Center of Gravity”になろう」と考え、“Center of Gravity”というミッションステートメント(綱領)を採用した。

だが、それでは業界団体が勝手にそう主張しているだけだと思われる。 “Center of Gravity”になるには何かが足りない。 そこで Linux の“Center”である Linus を OSDL に入れたらどうだろう、 ということになった。

Linus には以前から声をかけていたが、 最終的に Linus が承諾し、OSDL が“Center of Gravity”であることを証明する非常に大きな役割、シンボルとなることに同意してくれた。

Linux オープンソースの“Center”だった Linus が OSDL に所属することになったことにより、OSDL の位置付けは明確になった。

もちろん、Linus と OSDL が求めているものは微妙に違う。 しかし、少なくとも出発点を共有することで一致した。 Linus はコミュニティの“Center of Gravity”、 OSDL は業界の“Center of Gravity”である。

Linus と OSDL、Linux と OSDL の関係について、少し説明しよう。

Linus はあまり外部に顔を出したがらない人物だが、 オタワのカーネル開発サミット(The Annual Linux Kernel Developers Summit)だけは必ず参加する。

カナダのオタワサミットは1999年から開催されているが、 開始当時は OSDL のメジャーな参加企業はサミットのスポンサーになっていない。 目だったスポンサーとしては SGI しかいなかった。 その時点では IBM も HP もスポンサーではなかった。

その後数年を経過して、OSDL 参加企業が順次スポンサーとして参加するようになり、 現在は IBM、HP、Intel、Dell、などがずらっと並んいる。

この数年間に何が起こったか。

オープンソースコミュニティと企業は、1998年まではほとんど何の関係もなかった。 それがここ2、3年の間に急激な変化があった。これは何もオタワのサミットだけに限らない。 エンタープライズ系の改善、ミッションクリティカルな機能追加の要求が、 まず1999年ころから具体化し始めたのだ。

オープンソースコミュニティと企業が関係を持ち始めたのが1998年で、 この年に IBM などが当時未公開企業 Red Hat に投資を始めた。 1999年の8月には Red Hat は株式を公開、オープンソース Linux 会社として初めて上場を果たした。

Red Hat の上場により、IBM、 Oracle が Linux とのオフィシャルな関係を築いたと言える。 それ以降、企業とオープンソースコミュニティが何らかの関係を持つことが世間にも顕著になった。

IBM は、オープンソースコミュニティによる z/Series の Linux コードのメンテナンスを模索していたが、これが実現するのに最終的には2年くらいかかった。それも1999年以降の話だ。

そもそもオープンソースコミュニティのエンジニアは IBM のメインフレームを自宅に持っていない。自宅にないマシンをどうしてメンテしなければいけないのか、 というコミュニティからの反発に対し、IBM は長年のコンピュータ全体に対する貢献をアピールしながら、コミュニティと交渉を開始した。

しかし、コミュニティの側も最初から拒否したわけではない。 Linus が Linux を作るときも Intel の IBM PC 互換マシンを使ったし、 IBM は他の企業に比べて別格の存在だったということもあったようだ。 普通ならありえないメインフレーム用の Linux オープンソースをメインストリームとしてメンテナンスすることを承諾した。その議論に2年以上かかった。

似たような議論がいろいろなところで起こり始めた。

最初のころは“@ibm.com”や“@intel.com”…などのメールアドレスを持つコミュニティメンバーはあまり目立たなかったが、 この間、大きなベンダーに勤務するエンジニアがコミュニティにだんだん増えてきて、 そういう人々がオタワのサミットに参加するようになった。 その結果、自然な流れとして Intel や IBM などの企業がコミュニティの“お祭り”であるオタワのサミットのスポンサーになっていった。

さて、OSDL が“Center of Gravity”であることを証明するシンボルとなった Linus だが、実はデスクトップにはあまり興味がない。 ミッションクリティカル分野についても同様だ。

「自分にできないことは、もっと優秀な人や得意な人がやればいい」ということで、 Linus はサブシステムメンテナーのような人たちを登用し、どんどん任せている。 これはマネジメント的にはうまい手法だ。

Linus は最終統括責任者のような位置づけにあるが、 彼自信も役割としてそのように振舞おうと思っているようだ。 最近の Linux 関連のメンテナンスの仕組みが若干変わったのもそのせいではないか、 と思う。

今までは、奇数は開発版リリース、偶数は安定版リリース、という単純なものだったが、これを2系統に分けて、開発カーネルのメンテナーは Andrew Morton、安定カーネルの メンテナーは Linus ということになった。

安定版カーネルはその後世の中に出て行くカーネルで、 その接点を自ら引き受けたわけだ。 それ以外の、ツリー構造の詳細なサブシステムとかデスクトップとか、各機能の 個別メンテナンスは優秀な人に任せたわけだ。

Linus の巧みな連携のおかげで、ミッションクリティカルな部分に企業エンジニアの 貢献が増えてきたのは、当然、自然な流れだ。開発コミュニティに今までいたエンジニアにしても Linus と同様で、興味ないものはやるべきじゃないし、企業がやればいい、 と思っている。オープンソースがシステムとして成長していくと機能も向上するしいいことであるから、みんなでそれを容認しよう、ということだ。

コミュニティのエンジニア、企業のエンジニアが適材適所にあり、いい意味で組織が拡大してきた。

オタワのサミットも毎年毎年企業色が強くなってきているが、 それは以上のような理由からだ。 企業側が意図的にそうしたからではない。

ところで、また Linus に戻るが、 彼は元来好きな技術をこつこつ研究したいタイプだ。 当時も今も大それたことは考えていない。ビジョンを語れと言われるとすごく嫌がる。 図らずも世界的に有名になってしまったが、それは自分の本意ではないと言うスタンスを崩してない。 彼自信は偉くなろうとか有名になろうとか思ってやってきたわけではないし、彼の価値観にそういうのはない。 しかし、みんなが自分を大事に思ってくれるのはうれしい、と、結構淡々とした態度だ。

北欧と言う地理的歴史的位置付けが、彼のような淡々とした人たちを多く生んでいる。 特にフィンランドは、常にスウェーデンとロシアの緩衝地帯であったので、 そこで生まれ育ったことが、彼の性格形成に影響を与えているのかもしれない。

Linusの人生の目標は、有名になって偉くなって金持ちになる、という俗っぽいものからは程遠いものだ。「僕はそんな大それた人間ではないが、僕も家族も幸せになりたい」としか言わない。 これは非常に本質的な、一種成熟した考え方だと思う。

このようなシンプルで健全な世界観をもつ Linus が中心にいる仕組みだからこそ、企業や資本家の団体とうまく融合できるのだろう。もし彼に通俗的な部分があったとしたら、うまくいかなかったと思う。

記事提供:OSDL(Open Source Development Labs)米国日本






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