Technology
テクノロジー
Linus と話がしたいのだけれど……
■Linus はビジョンを語らない
OSDL に所属していると、 企業や団体などからよく、 Linus に会いたい、 会って話がしたい、あるいは Linus を呼んで講演会を開催したいのだが、 という相談を受けることが多い。 しかし、こういう依頼はまず実現しない。
なぜかというと、 Linus は、 明確なビジョンを持ってそれについて語ったり、 あるいはそれに基づいて将来の予測を語ったりするビジョナリーではないし、 業界や技術の将来についてのメッセージを発するのを嫌う人物である。
通常、Linus のような立場にある人物だとそのようなことを期待されるのだが、 彼はそういうことを一切しない。 それは彼の性格の非常に大きな特徴でもあり、 彼自身の姿勢や考え方を象徴している。
要するに Linux は宗教ではない、ということだ。 単に Linux を作りたいから作った。 Linux の作成者として有名になり、もてはやされるようになったからといって、 突然自分の態度を変えたり、 Linux オープンソースのリーダーとして業界にメッセージを発信する、 という発想は、彼にはない。
これは Linus を知るうえで非常に重要な点だ。 Linus はここ10年ほど、 全世界のオープンソース運動のスーパースター(と、Linus が住んでいるオレゴン州のローカル紙『The Oregonian』は評している)でありながら、 ほとんど敵もなく、泥沼の論争に巻き込まれたこともあまりない。 少なくとも OSDL に参加してからは論争をしていないし、日々を淡々と過ごしている。
Linus は現在オレゴン州に住んでいるが、 地元では有名人で、 ローカル新聞の『The Oregonian』には彼の記事や写真が掲載されたりする。 先日、自転車に乗った Linus の写真を見つけた。 ポートランドで道路渋滞に巻き込まれ、 自動車の間に挟まれてちょっと困惑気味の写真だ。 メルセデスではなく、自転車に乗っているというのが、Linus らしい。
■IT 企業のトップは Linus と話ができるか?
Linux オープンソースが IT 業界に広範囲に浸透し、 業界全体で広く使われるようになると、 テクノロジーに関しても、 IT 業界企業のトップの側から Linux に関するさまざまな要求が出てくるが、 Linus には、 それらの人々に対する特殊なチャネルはない。 あえて持たない、と言ったほうがいいかもしれない。
ということは、 IBM とか富士通とかいった、 通常であれば影響力のありそうな企業でも Linus に直接、 Linux は次はこうしてくれないか、と頼むことはできないのだ。
それはなぜか。
Linux のコミュニティでは、 コミュニケーションは基本的にメーリングリストで行われている。 最初からそうだった。
Linus は、 カーネル指向の本流の Kernel.org には参加しているが、 開発コミュニティのメーリングリストには、 そのほかに機能別分野別にさまざまなものがあり、 彼が参加しているものもあるし、そうでないものもある。
Linus に自分の意見を伝える一番簡単な方法は、 まず彼が所属しているメーリングリストに参加して、 Linus を名指しするのではなく、 「こういうものを作りたいのだけれど、みんなどう思う」、 というような質問を投げてみるといいだろう。 これなら Linus が「それ、いいね」と返答してくれる可能性が高い。
さらに言うと、 彼がもっとも活発に参加しているメーリングリストで、 純粋にテクニカルな疑問を投げかけたほうが、Linus が返答してくれる可能性が高い。
■どうやったら Linux のコミュニティに参加できるか
コミュニティに参加してみようと思っても、 その参加方法がわからない人がけっこういる。 特にプロプライエトリなビジネスモデルで開発して来た人々には、 Linux オープンソースコミュニティへの参加方法がわからない。 「コミュニティへの参加の仕方」というのはどこにも書いてないからだ。
ネットの場合もそうだが、コミュニティには暗黙のルールがある。 コミュニティに参加するには、まずメーリングリストに参加することだ。 言いたいことがあれば、そこで発言するのがルールなのだ。 このことを理解するのは大事なことだ。
まず、自分の興味のある機能、 Linux 的に言うとサブシステム、 そして影響力のあるメンテナーのいるメーリングリストに参加する。 それが王道であり、最低限のルールだ。
こういうことは技術者レベルだと知っているが、 企業のトップ、あるいは技術マネージャーなどは案外知らない。 これまでの仕事のやりかたに沿った伝統的なコンタクト手法をとりがちだ。 つまり、いきなり OSDL に電話してきたり、メールを送ってきたりして、 Linus と会いたいとか、Linus に講演してほしい、 というのだ。 OSDL はむしろこのような依頼から、Linus を保護する役割もある。
■Linux オープンソースは専門的な集団
Linux オープンソースコミュニティに参加するには、 まずメーリングリストに参加しなければならない、 ということは理解していただけたと思う。
今度は、どのメーリングリストに参加するかだ。 そこで、Linus を頂点とするサブシステムメンテナー、 ツリー構造の上層部に誰がいて、 どの分野を主導しているかを知ることが重要になってくる。
たとえば、 ファイルシステムであれば、ext3 の Stephen Tweedie、 メーリングリストで発言して、彼に名前を覚えてもらう。 Linus とのチャネルを本気で確立したいと思うのであれば、 著名なメンテナーに自分をアピールするのが近道だろう。
だが、Linux オープンソースは非常に専門的な集団であり、 メーリングリストでの議論は過去からずっと継続しているので、 いきなり突拍子もない発言をしてもはねられてしまう。 これまでの議論の流れを理解したうえでないと、うまくいかないかもしれない。
■Linus は普通の人間である
とはいえ、 Linus も人間であり、ルールから外れたこともときにはやる。
最近の話だが、Linus がイタリアの Nokia で働いている友人に頼まれて、 Nokia の Linux 関連のイベントに参加したそうだ。
Linus はフィンランド人であり、 Nokia はフィンランドの会社だ。 Nokia には Linus の知り合いがたくさんいるのだ。
もうひとつは、 Linus は韓国ソウル市の名誉市民になっている。 突拍子もない話だが事実だ。
2002年のことだが、 ソウル市が Linus を呼んで名誉市民にするために、 当時 Linus が住んでいる場所に人を送り込んで、直接交渉させた。
最初はうんと言わなかった Linus も、 派遣された人間が1週間位日参して懇願した結果、 ようやく話すチャンスを得て事情を説明すると、 根負けして承諾した。 そこで Linus 2002年12月13日、 ソウル市に行き、スピーチをして名誉市民証を授与された。
こういったエピソードから浮き上がる Linus の人物像は、 OSS のスーパーアイドルといった華やかなものではない。 ごく普通の人間だ。 だからこそ、ソウル市のような手法が通用するし、 Nokia にいる友人に頼まれると、イタリアまで行ってイベントに参加したりする。
彼の周囲にいる友人も固定している。 Linus が現在所属する OSDL のボードメンバーには、 昔からの友人である VA Linux の創設者 Larry Augustin(現在 Medsphere Systems CEO)、 Dirk Hohndel(SuSE 元 CTO、現在 Intel エバンジェリスト)らがおり、 昔からの付き合いを大事にするタイプのようだ。
情に弱い、という点は、彼の本(『Just For Fun』小学館プロ刊、邦題『それがぼくには楽しかったから』)を読むと、 よく理解できる。
そもそもコミュニティというのは、 広い意味では友人の集まりだ。 そこにストレートにビジネスの話が持ち込まれると、 若干違和感が生じるのだろう。
今回はコミュニティの話から、 Linus について集中的に書いた。
記事提供:OSDL(Open Source Development Labs)米国・日本
OSDL に所属していると、 企業や団体などからよく、 Linus に会いたい、 会って話がしたい、あるいは Linus を呼んで講演会を開催したいのだが、 という相談を受けることが多い。 しかし、こういう依頼はまず実現しない。
なぜかというと、 Linus は、 明確なビジョンを持ってそれについて語ったり、 あるいはそれに基づいて将来の予測を語ったりするビジョナリーではないし、 業界や技術の将来についてのメッセージを発するのを嫌う人物である。
通常、Linus のような立場にある人物だとそのようなことを期待されるのだが、 彼はそういうことを一切しない。 それは彼の性格の非常に大きな特徴でもあり、 彼自身の姿勢や考え方を象徴している。
要するに Linux は宗教ではない、ということだ。 単に Linux を作りたいから作った。 Linux の作成者として有名になり、もてはやされるようになったからといって、 突然自分の態度を変えたり、 Linux オープンソースのリーダーとして業界にメッセージを発信する、 という発想は、彼にはない。
これは Linus を知るうえで非常に重要な点だ。 Linus はここ10年ほど、 全世界のオープンソース運動のスーパースター(と、Linus が住んでいるオレゴン州のローカル紙『The Oregonian』は評している)でありながら、 ほとんど敵もなく、泥沼の論争に巻き込まれたこともあまりない。 少なくとも OSDL に参加してからは論争をしていないし、日々を淡々と過ごしている。
Linus は現在オレゴン州に住んでいるが、 地元では有名人で、 ローカル新聞の『The Oregonian』には彼の記事や写真が掲載されたりする。 先日、自転車に乗った Linus の写真を見つけた。 ポートランドで道路渋滞に巻き込まれ、 自動車の間に挟まれてちょっと困惑気味の写真だ。 メルセデスではなく、自転車に乗っているというのが、Linus らしい。
■IT 企業のトップは Linus と話ができるか?
Linux オープンソースが IT 業界に広範囲に浸透し、 業界全体で広く使われるようになると、 テクノロジーに関しても、 IT 業界企業のトップの側から Linux に関するさまざまな要求が出てくるが、 Linus には、 それらの人々に対する特殊なチャネルはない。 あえて持たない、と言ったほうがいいかもしれない。
ということは、 IBM とか富士通とかいった、 通常であれば影響力のありそうな企業でも Linus に直接、 Linux は次はこうしてくれないか、と頼むことはできないのだ。
それはなぜか。
Linux のコミュニティでは、 コミュニケーションは基本的にメーリングリストで行われている。 最初からそうだった。
Linus は、 カーネル指向の本流の Kernel.org には参加しているが、 開発コミュニティのメーリングリストには、 そのほかに機能別分野別にさまざまなものがあり、 彼が参加しているものもあるし、そうでないものもある。
Linus に自分の意見を伝える一番簡単な方法は、 まず彼が所属しているメーリングリストに参加して、 Linus を名指しするのではなく、 「こういうものを作りたいのだけれど、みんなどう思う」、 というような質問を投げてみるといいだろう。 これなら Linus が「それ、いいね」と返答してくれる可能性が高い。
さらに言うと、 彼がもっとも活発に参加しているメーリングリストで、 純粋にテクニカルな疑問を投げかけたほうが、Linus が返答してくれる可能性が高い。
■どうやったら Linux のコミュニティに参加できるか
コミュニティに参加してみようと思っても、 その参加方法がわからない人がけっこういる。 特にプロプライエトリなビジネスモデルで開発して来た人々には、 Linux オープンソースコミュニティへの参加方法がわからない。 「コミュニティへの参加の仕方」というのはどこにも書いてないからだ。
ネットの場合もそうだが、コミュニティには暗黙のルールがある。 コミュニティに参加するには、まずメーリングリストに参加することだ。 言いたいことがあれば、そこで発言するのがルールなのだ。 このことを理解するのは大事なことだ。
まず、自分の興味のある機能、 Linux 的に言うとサブシステム、 そして影響力のあるメンテナーのいるメーリングリストに参加する。 それが王道であり、最低限のルールだ。
こういうことは技術者レベルだと知っているが、 企業のトップ、あるいは技術マネージャーなどは案外知らない。 これまでの仕事のやりかたに沿った伝統的なコンタクト手法をとりがちだ。 つまり、いきなり OSDL に電話してきたり、メールを送ってきたりして、 Linus と会いたいとか、Linus に講演してほしい、 というのだ。 OSDL はむしろこのような依頼から、Linus を保護する役割もある。
■Linux オープンソースは専門的な集団
Linux オープンソースコミュニティに参加するには、 まずメーリングリストに参加しなければならない、 ということは理解していただけたと思う。
今度は、どのメーリングリストに参加するかだ。 そこで、Linus を頂点とするサブシステムメンテナー、 ツリー構造の上層部に誰がいて、 どの分野を主導しているかを知ることが重要になってくる。
たとえば、 ファイルシステムであれば、ext3 の Stephen Tweedie、 メーリングリストで発言して、彼に名前を覚えてもらう。 Linus とのチャネルを本気で確立したいと思うのであれば、 著名なメンテナーに自分をアピールするのが近道だろう。
だが、Linux オープンソースは非常に専門的な集団であり、 メーリングリストでの議論は過去からずっと継続しているので、 いきなり突拍子もない発言をしてもはねられてしまう。 これまでの議論の流れを理解したうえでないと、うまくいかないかもしれない。
■Linus は普通の人間である
とはいえ、 Linus も人間であり、ルールから外れたこともときにはやる。
最近の話だが、Linus がイタリアの Nokia で働いている友人に頼まれて、 Nokia の Linux 関連のイベントに参加したそうだ。
Linus はフィンランド人であり、 Nokia はフィンランドの会社だ。 Nokia には Linus の知り合いがたくさんいるのだ。
もうひとつは、 Linus は韓国ソウル市の名誉市民になっている。 突拍子もない話だが事実だ。
2002年のことだが、 ソウル市が Linus を呼んで名誉市民にするために、 当時 Linus が住んでいる場所に人を送り込んで、直接交渉させた。
最初はうんと言わなかった Linus も、 派遣された人間が1週間位日参して懇願した結果、 ようやく話すチャンスを得て事情を説明すると、 根負けして承諾した。 そこで Linus 2002年12月13日、 ソウル市に行き、スピーチをして名誉市民証を授与された。
こういったエピソードから浮き上がる Linus の人物像は、 OSS のスーパーアイドルといった華やかなものではない。 ごく普通の人間だ。 だからこそ、ソウル市のような手法が通用するし、 Nokia にいる友人に頼まれると、イタリアまで行ってイベントに参加したりする。
彼の周囲にいる友人も固定している。 Linus が現在所属する OSDL のボードメンバーには、 昔からの友人である VA Linux の創設者 Larry Augustin(現在 Medsphere Systems CEO)、 Dirk Hohndel(SuSE 元 CTO、現在 Intel エバンジェリスト)らがおり、 昔からの付き合いを大事にするタイプのようだ。
情に弱い、という点は、彼の本(『Just For Fun』小学館プロ刊、邦題『それがぼくには楽しかったから』)を読むと、 よく理解できる。
そもそもコミュニティというのは、 広い意味では友人の集まりだ。 そこにストレートにビジネスの話が持ち込まれると、 若干違和感が生じるのだろう。
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