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2006年7月24日 11:50

日本 HP のシンクライアント戦略―「シンクライアントの理解を深め、市場を活性化する」

2005年4月の個人情報保護法施行を受けて、一躍脚光をあびたシンクライアントだが、情報漏えい対策の切り札となるのか。国内大手メーカーは、日本のシンクライアント市場をどのように見ているのだろうか。今回は、日本 HP パーソナルシステムズ事業総括デスクトップビジネス本部クライアントソリューション担当マネージャー 舟木覚氏にお話を伺った。

「欧米に比べ、日本では、シンクライアントの市場がまだ固まっていないようだ」と舟木氏は言う。その根拠として、シンクライアント以外にも市場を捉える言葉があることを挙げる。例えば、「ディスクレス PC」、「セキュリティ PC」、「仮想クライアント」などがそうだが、実はこれらはすべて同一の市場を言い表しているという。つまり、一般的に企業で構築されるネットワークのなかで、クライアント側の機能を分散させたもので、分散させた環境をなるべくシンプルにし、複雑なところは極力集中管理して、エキスパートが管理するというものである。

市場を捉える言葉が様々に飛び交うが、日本HPでは「シンクライアント」という言葉にこだわって、市場にアピールしていきたいと考えている、と舟木氏は付け加える。

日本 HP がシンクライアントの日本市場に参入したのは2005年。国内大手メーカーが相次いで日本市場に参入した年である。

日本 HP は、シンクライアントの市場を、システムベンダーとしての同社の強みを生かせる場だと見ている。

「シンクライアントと一口に言っても、その方法論は、市場を捉える言葉同様、多様に存在する。そうした市場においては、顧客ユーザーの状況を理解して、適切なソリューションを提案するなど、的確に顧客ユーザーをリードしていくことが求められる。日本 HP は、顧客ユーザーの環境全体をシステムとして捉え、顧客ユーザーに必要なサーバーやストレージなどをすべて取り揃えて納入することができる」(舟木氏)

あらゆる顧客のニーズに対して IT インフラをワンベンダーで応えることができるのが日本 HP の強みだと舟木氏は強調する。

そうした意気込みをもって、市場に参入した日本 HP だが、日本のシンクライアント市場を、一部の機密性の高いセキュリティ PC としての活用から、今後どのように一般的なソリューションとして普及させていくかが課題だと舟木氏は語る。

IDC Japan 株式会社が、2005年8月に発表した国内のシンクライアントおよびブレードクライアント市場規模予測では、2009年には国内シンクライアント出荷台数は47万台、ブレードクライアント出荷台数は44万台に達するとしており、国内市場において今後の成長が見込まれるとしているが、今はまだその段階ではないようだ。

日本 HP は、セキュアなクライアントシステム構築のためのソリューションとして、次の4つを提供している。

まず、管理ツールによる機能強化。従来の IT インフラをそのまま利用しつつ、監視ソフトやイメージ配布ソフトなどの管理ツールによって、IT 管理者がクライアント PC の状態を集約的に把握し、管理する手法である。

次に、ネットブート方式とディスクレス PC を組み合わせたソリューション。クライアントの OS イメージとアプリケーションがインストールされているディスク部分をサーバー上に設定し、PC 内から書き込み可能なハードディスクを排除した「ディスクレス PC」をネットワークを介して起動する方式である。同社が「ディスクレスモデル」として提供しているものだ。

そして、サーバーベースドコンピューティング方式とシンクライアントを組み合わせたソリューション。サーバー上に仮想クライアント環境を再現し、アプリケーションをサーバー上に集約するとともに、データそのものをクライアントから完全に切り離すのが「サーバーベースドコンピューティング(SBC)」方式である。

それから、ブレード PC 方式とシンクライアントを組み合わせたソリューション。PC そのものをブレード化して集約化し、画面情報のみを端末のシンクライアントに送信する方式である。

このうち、SBC 方式とブレード PC 方式に対応するシンクライアントが、2006年2月に販売開始された t5720 Thin Client 端末である。

「シンクライアント端末として、許容範囲内の大きさと低消費電力で、パワーを出すための解が t5720 だった」と舟木氏は振り返る。t5720 は、Windows XP Embedded 対応で、プロセッサには AMD Geode NX 1500を採用しており、平均6ワットの低消費電力しか必要としない。また、従来の t5710よりもシンクライアント単体でのグラフィックス性能を強化し、DVD 画質レベルの映像をスムーズに再生できる。さらに、VESA 規格準拠アダプタにより、液晶モニタの後ろに固定したり、壁に掛けたり、設置の自由度が増した。なお、ハードディスクや冷却ファンなどの駆動部品を持たないため、通常の PC と比較して、低騒音で、故障率が格段に低い。

万が一、シンクライアント端末が故障した場合でも、システム部門のスタッフが現場に修理に出向く必要はない。シンクライアント端末にはハードディスクが搭載されておらず、データやアプリケーションが集中管理されているマシンルームやデータセンターなどで対応可能だからだ。

また、シンクライアントでは、従来の PC やディスクレス PC では採算上考えられなかった全交換も可能だ。壊れたら、取り替える。そのため、部品交換や修理の手間が省ける。

それでは、実際にシンクライアントを導入してメリットがあるのはどんな環境なのだろうか。日本 HP がターゲットにしているのは、大企業、中小・中堅企業の金融・通信・教育・公共・製造業と多岐にわたるが、人の出入りが多くユーザーを特定できないようなコールセンター、外注案件が多くソースコードが漏れてはいけないシステム開発部門なども視野に入れている。

概して、定型的な業務を行う部門で、アプリケーションの特定がしやすいところほどシンクライアントの対象となる。

しかし、2006年2月のイーバンク銀行の導入事例は、そうしたシンクライアントに対する概念を覆した。

同行は、2001年7月にネット専業銀行として開業して以来、ネットオークションやECショッピング、ポイントサービスなど主にネット上の電子決済サービスを展開してきた。営業店窓口で顧客と直接相対しない同行にとって、ネット上で安心して取引できる仕組みを構築することは最重要課題だった。「カスタマセンターのセキュリティとコンプライアンスを強化したい」「さらなる対応の迅速化や精度アップをしたい」「将来を見越した拡張性を確保したい」という同行の要望に対して、日本 HP は、ブレード PC によるシンクライアントを提案し、リソースをデータセンター側に集約して、情報セキュリティを徹底した。

イーバンク銀行という、今後ユーザー数の増加と事業拡大で、業務やクライアントアプリケーションの増加が予想される成長企業でシンクライアントが導入されたことで、拡張性が求められる環境においても、導入のメリットがあることが証明された。

また、強固なセキュリティが要求される金融機関で導入されており、シンクライアントが、セキュリティ強化という点で有効な手段であることに疑いの余地はない。

それでは今後、シンクライアントの導入をさらに促進するためにはどうしたらよいのだろうか。

「今後の課題は、シンクライアントを用いたシステム全体の導入・運用コストを理解してもらうことだ」と舟木氏は言う。

シンクライアント端末は、ハードディスクがないなど市販の PC よりも機能が劣るため、PCより安価なのだろうという先入観がある。しかしながら、実際はそれほど低価格ではない。日本 HP が提供する端末 t5720 1台の価格は6万9,300円(税込)だが、サーバなどを含めたシステム全体の初期導入コストは決して安いとは言えない。

しかし、シンクライアントによる運用面での一極集中化とインフラの標準化による管理・保守コストのメリットにより、システム全体にかかる費用は相殺される。

まずは、運用・管理までを含めたシステムにかかるトータルコストの削減や拡張が容易であることなど、セキュリティやコンプライアンス対策といった用途だけでなく幅広いメリットが得られることを理解してもらう。その上でシンクライアントを導入する顧客ユーザーを増やし、市場自体を活性化していく。これが日本 HP の考える戦略だ。

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