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2006年8月30日 09:00 |
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情報整理のパラダイムシフト
著者: 高塚直樹 プリンター用 記事を転送
▼2006年8月30日 09:00 付の記事
□国内internet.com発の記事
■タグ、古くて新しい考え方
前回、「参加のアーキテクチャ」「集合知」「データが次世代のインテル インサイド」という一連のキーワードが、Web2.0 の最も重要な特徴だ、ということを書きました。
改めて考えると、これらのキーワードは、データの集積に関連する表現だといえます。一方で、集積されたデータを効率的に利用する方法もまた重要であるはずです。
その文脈で、「タグ付け」という考え方が、Web2.0 的なアプローチとして挙げられます。しかし個人的には、タグ付けはその潜在的なパワーを発揮しきれていないと思うと同時に、だからこそ、今後、飛躍的に応用されることへの期待感があります。
英和辞書を見ると、「タグ」とは、付箋や荷札のことだと説明されています。つまり、何かに目印をつけることがタグ付けだといえるでしょう。もちろん、そんなことは昔から誰もがやってきたことです。参考書や資料などに付箋紙を貼ることはもちろん、幼稚園や小学生の頃、持ち物にクラス名と氏名を書いていたことも、立派なタグ付けです。
そんな当たり前の行為が、今頃になって、なぜ新しいアプローチとして取り上げられるのでしょうか?
その答えのひとつとして、タグ付けがフォークソノミーという Web2.0 的な行為のための有効なツールとなっていることを強調できるかもしれません。ただ、私はタグ付けにもっと大きな可能性を感じているので、タグ付けを特定の行為に関連づけるのではなく、より汎用的に活用されるべきツールとして考えたいと思います。
タグ付けが新しいものとして取り上げられるのは、従来、コンピュータシステムではディレクトリという考え方が支配的で、リアルな世界ではありふれたタグ付けが、これまでコンピュータの世界では流行らなかったからではないでしょうか。
■ディレクトリ管理 vs. タグ付け
では、従来的な考え方である「ディレクトリ」とは何でしょう?
まず同じように英和辞書にあたると、ディレクトリは名簿とか住所録だと説明されています。しかし、コンピュータシステムの世界でディレクトリといえば、ユーザ情報を一元管理する、まさに名簿的な仕組みのことを意味する場合と、ファイル管理システムの階層管理用の概念を意味する場合があります。タグ付けの対概念として取り上げるのは、情報を整理するという目的が共通している後者の方です。
これまでのコンピュータシステムの歴史を通して、ファイル管理システムの影響はかなり強烈でした。
ファイルという形式でコンピュータにデータが保存される、そしてそのファイルの保存を司るファイル管理システムではディレクトリ管理が使用されている、ということが前提となって、いつの間にか、情報を整理する際の私たちの思考は、ディレクトリ管理という考え方に支配されているのではないでしょうか?
また実際に、大量のファイルをフラットに保存しなければならないとすれば、それは悪夢のような状況です。そう考えると、私たちがディレクトリ管理の恩恵を受けてきたことは間違いありません。
しかし、タグ付けが登場した今、ディレクトリ管理以外の有力な選択肢が私たちの目の前にはあるのです。ディレクトリ管理による情報の整理というパラダイムに囚われる必要はないはずです。
ディレクトリ管理の呪縛を解くために、ディレクトリ管理との比較を通して、タグ付けの威力を確認しましょう。
ディレクトリ管理が一次元的な階層による表現であるのに対して、タグ付けは多次元的で並列的な表現だといえます。ディレクトリは、出発点(ルート)から順序通りに階層を辿ることで特定の情報を絞り込みます。目的地は、出発点からの階層ごとの分岐を線で結ぶことで表現できます。つまり、一次元の線での表現量しかないということです。
対してタグ付けは、階層関係や包含関係のないそれぞれが独立した複数のタグによって、情報を分類することが可能です。こちらは、独立したタグの数の分だけの次元数で表現することができるのです。
つまり、ディレクトリ管理で表現できることはタグ付けで表現でき、ディレクトリ管理では表現できないことまでタグ付けで表現できるということになります。
簡単な例でこのことを確認してみましょう。
下の図は、私の CD コレクションをディレクトリ管理で整理したものです。
この例では、最初の階層で Solo と Band という活動形態で分けているため、その下位階層である R&B と Rock(Folk)というジャンルでの分類だけを見ることはできません。そのため、R&B と Rock(Folk)というディレクトリを、Solo と Band それぞれの下の階層に重複して別々に作成しなければならなくなってしまいます。これが、一次元の表現の限界です。
対して、タグ付けはどうでしょうか?
それぞれの CD に対して、その活動形態とジャンルのタグを付加して、後は CD を特定するために、自由にタグを組み合わせて絞り込めばいいのです。
ディレクトリ管理での絞り込みと同等のことは、例えば、Solo でかつ R&B という組合せで、Curtis Mayfield、Al Green、Donny Hathaway を抽出することで可能です。逆にディレクトリ管理では上手くいかなかった、Rock(Folk)というジャンルで Solo も Band も関係なく該当する CD を並べることもできます。
さらに言えば、この図では複雑になりすぎるので表現できていませんが、複数のジャンルを CD へ与えることも可能です。例えば、Carole King は Rock(Folk)であると同時に、R&B という側面もあることを表現したい場合、ディレクトリ管理では上手く対応できませんが、タグ付けであれば何の問題もありません。両方のタグを付ければいいだけなのですから。
■タグで表現するもの
上述の例では、アーティストの活動形態、音楽のジャンルに関するタグで、CD を分類しました。何となく「分類」というと、こういう対象物の内容的な特徴に関する情報で行いがちではないでしょうか?
そのことまでディレクトリ管理の呪縛とは言いませんが、ただ何かしら、ディレクトリ管理が一次元であるが故に分類軸を吟味することが習い性となって、思考が束縛されているように思います。もっと別な観点、対象物そのものの特徴ではなく、その周縁の状況なども含めた軸を交えてもいいはずなのです。
例えば、CD の例で言えば、その CD を購入した時期を付加してもいいかもしれません。そうすれば、特定の時期の思い出に浸りたい際などに便利でしょう。あるいは、主体(情報を利用する側)の活動に付随する事項を付加することも考えられます。
例えば、メールの整理術 The Inbox Makeover 方式 では、自分がどうアクションすべきか(返信しなければならないのか、何かしらの行動を行わなければならないのか、放置していいのか、etc.)という観点でメールをフォルダに振り分けて、受信メールを効率よく処理することが提言されています。
メーラーのフォルダはディレクトリそのものですが、もちろんタグで表現しても一向に構わないはずです。いえ構わないどころか、上述した次元数の制約がないので、タグ付けであれば、要返信かつ要行動のような意味づけも簡単に実現できます。
このように、付加できる情報の次元数の制約から解放されたタグ付けを前提とすれば、対象の内容だけでなく、状況や状態も分類の要素に積極的に加えることで、これまでと違った世界が見えるかもしれません。
■パラダイムシフトは起こるか?
こう考えてみると、タグ付けはディレクトリ管理よりも利点が多いはずです。しかし、まだまだ利用されている局面は限られています。移行過程なのか、それともディレクトリ管理のパラダイムに私たちがまだまだ囚われているだけなのか、それは定かではありません。
ただ、タグ付けのポテンシャルをより広範に適用できて、しかもユーザーフレンドリーなソフトウェア製品が登場して、情報整理の新しいパラダイムへ私たちを自然と導いてくれることを、私は期待しています。そうなれば、個人のレベルだけでなく、企業などの組織内での情報の整理と共有のあり方も、劇的に変化するのではないかと思うのです。
最終的なユーザーが利用するアプリケーションとしての形がどうなるか、想像の及ばない面もあるのですが、もう少し下のレイヤーで、こういうソフトウェアがあってもいいのではないかという想像はできます。
よくよく考えてみれば、タグで情報をフィルタリングすることは、タグで表現された構造化データに対する集合演算です。実際、多くの場合、タグ付けの実装は RDB(Relational Database)を利用しているはずです。そして、タグで表現される情報は、対象そのものが保持している本質的な情報とは切り離して考えることができる情報に付加される情報、つまりメタ情報といえます。だからこそ、本来は構造化されていないデータに対しても、メタデータに関して集合演算できるのです。
そうであれば、対象そのものの本質的な情報を管理するアプリケーションが、メタ情報も操作する必然性はありません。メタ情報としてのタグ付けとそれに伴うフィルタリングの機構は、アプリケーションに依存しないコンポーネントとして用意することが可能なはずです。メタ情報と、本質的な情報を結び付けてくれる「メタデータ管理システム」とでも呼ぶべき機構です。
それは Microsoft が WinFS で試みたことだったといいます。しかし、Microsoft はその開発を断念したそうです。
確かに、タグを利用したファイル管理の構造化という面では、WinFS は私の期待するソフトウェアと一致しています。ただ、WinFS は全面的なファイルシステムの刷新であって、私の希望する機能はその一部のようです。
Microsoft が断念したからといって、より目的を限定した軽量な仕組みとして、メタデータ管理システムのようなものが開発できないということではないはずです。
過去に、構造化データの集合演算を効率的に行うための機構として、ファイルシステムの上にRDBMS(Relational DataBase Management System)が用意されました。それから、RDBMS とアプリケーションプログラム内でのオブジェクト操作の橋渡しを効率的に行うための機構として、O/R マッピングツールが用意されました。
これらはいずれも、データの保管とデータに対する特定の操作を効率化するために用意され、アプリケーションプログラムに便宜を提供するものです。
このような歴史の系譜に、メタデータ管理システムとでも呼ぶべきものが連なる可能性はないのでしょうか? そうなって、ファイルシステムや RDBMS で管理されている本質的な情報と、そこに付加するメタ情報の保管と操作の橋渡しする便宜を提供できれば、より広い範囲の様々なアプリケーションで、タグ付けのパワーが活用されるようになるのではないか、という期待があります。
今後の現実的な進展を自信を持って予言することはできませんが、ますます増大する情報を私たちがどのように整理しているのか、数年後のその姿には、答えが出ていることでしょう。そして、新しいパラダイムが福音となっていることを願います。
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