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エンタープライズ Linux への道

平野正信
 
 
■「エンタープライズ Linux」としての機能強化

Red Hat がつい先日 RHEL5 をリリースした。それと同時にソリューションも3種類(日本向けには2種類)発表した。「Red Hat Datacenter Solution」と、「Red Hat Database Availability Solution」、「Red Hat HPC Solution」だ。

ところで、「エンタープライズ Linux」という商品を作ったのは Red Hat だが、 Red Hat が「エンタープライズ Linux」を初めてリリースしたのは、2003年3月だ。この最初のリリース時には、今回のようなソリューションサービスパッケージはリリースされていない。

Red Hat が「エンタープライズ Linux」を世に出してから、それに付随する本格的なサービスを発表した2007年3月まで、4年間のブランクがある。このブランクは何を意味するのだろうか。

もっとも大きな理由の背景に、この4年間に、従来、オープンソースコミュニティにゆだねられていた機能強化が、IT 業界のニーズに適応し始め、エンタープライズ Linux としての機能が拡充されたことだ。従来、オープンソースコミュニティのエンジニアは企業の思惑に左右されずに純粋に技術に貢献するものとされてきた。

しかし、最近では、企業に所属しながら、企業の要求に沿った機能を開発し、コミュニティに還元するエンジニアが増えている。コミュニティから見ても、もともと弱い部分が強化されるのであるから、それを受け入れることにそれほどの抵抗感はない。結果として、IT 業界のニーズを尊重し、その要求が徐々に受け入れられているようにも見える。

IBM や HP などが数年前に Linux をエンタープライズ用途で採用し始めたころはまだ、UNIX とは機能的に差があった。しかし、カーネル 2.6 以降、その差が確実に縮まったことは、このような背景があるからだ。

■二極化する Linux

一方、従来からのホビースト向け、マニア向けのLinuxパッケージの利用者も確実に広がっている。代表的なものは Fedora と OpenSUSE、そして最近では Ubuntu の存在が目立つ。モバイルや組込み分野を除けば、Red Hat が当初意図したとおり、Linux はエンタープライズ用途と、ホビイスト/マニア向け用途に完全に二極化したと言える。

さて、本題の「エンタープライズソリューション」だが、ビジネスとして Linux を考えた場合、エンタープライズに特化したほうが利益を出しやすい。

当初は Red Hat も、企業や市場のニーズではなく、オープンソースコミュニティのプライオリティで機能強化に注力しているように見え、それが、Red Hat が“ピューリスト”と呼ばれるいわれだった。エンタープライズを本当に指向するのであれば、IT 市場のニーズに合わせた機能のプライオリティを上げなければならない。RHEL5 で当初、Xen は入れないと言っていたのが、急遽、それを取り込んだのは Red Hat の方針転換の一つの例であろう。

ここにきて Linux の機能強化が一段落したこともあり、また、徐々に IT 市場のニーズに対するプライオリティがあがってきた結果、Red Hat は、これからはソリューションカンパニーになると宣言したのである。

JBoss の買収時にも同様のことは言っていたようだが、今回の宣言がこれまでとは異なり、説得力があるのは、置かれた環境の厳しさによる。

Red Hat がエンタープライズに本気で取り込まざるを得なくなった背景には、Oracle が Unbreakable Linux で、Red Hat の Linux カーネルに対して、自社の DB/ミドルウェア/アプリケーション製品で行っているのと同等の企業向けサポートを提供する、という発表を行ったことがある。

また、Novell は、ヘテロジニアスを含んだ環境で Linux を捉え、Microsoft と提携して、インターオペラビリティ環境、ミックスドソース環境で顧客のニーズに合わせたインフラを提供するという姿勢を見せている。

このような流れに対する Red Hat の対抗策が、ソリューションカンパニー宣言だ。それを RHEL5 のリリースと同時に発した。

Linux の二極化が顕著であると述べたが、Linux コミュニティが言い続けてきたホビーとしての Linux も Ubuntu の台頭などを見る限り、開発コミュニティの幅も以前にも増し、拡大しているが、これまでと少し雰囲気が異なり、もともとのコモディティ的な開発と、企業向けソリューション用技術の開発が共存し始めた、という側面が顕著になっているようである。つまり、IT ベンダーが積極的にコミュニティに参画し、その部分の貢献を始め、コミュニティにも徐々に受け入れられたということだ。エンタープライズ系の機能に関しては、IT ベンダーや Intel などのテクノロジーカンパニーのエンジニアの貢献が顕著になってきている。

さて、Ubuntu と エンタープライズを標榜する Red Hat や Novell が同じレベルで対抗するというシナリオは、今後はないだろう。ホビースト向けには Fedora や Ubuntu など、企業向けには Red Hat、Novell と明確に別れていく公算が強い。Ubuntu の現体制から見てエンタープライズ化という可能性はほとんどない。エンタープライズをサポートするには世界中の主要地域ごとに顧客をサポートするための人員の配備などが必要だからだ。

今回の Red Hat によるソリューションカンパニー宣言は、Linux の二極化を決定付けるものであり、今年はそれが市場において鮮明に見えてくるだろう。

■「ひとつ上のステージ」の Linux

Red Hat の動きばかりを述べたが、Novell はさらに「ひとつ上のステージ」に持っていこうとしている。

「ひとつ上のステージ」というのは、メインフレーム OS に対抗できる Linux ということだ。別の言い方では、ミッションクリティカル Linux と呼んでもいい。本稿では、ミッションクリティカルな Linux は、通常のエンタープライズ Linux とは分けて考える。“通常”のエンタープライズ Linux は、Unix と同等のレベルの Linux ということであり、対して、ミッションクリティカル Linux というのはいわゆるメインフレーム OS と同等のレベルのサポートと機能を提供する Linux ということである。

同等という意味を大きく2つの意味で考えてみる。一つは技術や機能の問題、もう一つは、サポートやサービスの質である。

Linux の技術的な改良は、冒頭で述べたように、この4年間で着実に成果を収めている。Unix やメインフレーム OS の蓄積に比べると多少見劣りする部分はあるが、安定性や費用対効果の面ということではもう十分対抗できるレベルに達している。

残る部分はサポートだ。Linux のビジネスモデルはサポート付きだといわれて久しいが、エンタープライズ Linux のサポートと言っても、要はパッチの配布とバグ対応だ。パッチの配布は自動的であり、バグについてはバグジラに入力するというように、結構ユーザー自身の努力が必要だ。対して、Unix、メインフレームなどのサポートは、きっちりとしたサポート契約に基づき、細かいプロシージャが決められており、ユーザーも安心してシステムの運用に専念できる。つまり Linux のサポートは、従来 Unix などで提供されているエンタープライズサポートとは次元の違うものだった。

それにしてもエンタープライズ Linux が誕生してから4年間の間に、大手ハードウエアベンダーに共通して支持され、生き残ったのは Red Hat と Novell だけだ。その理由は何だったのであろうか。  

サポートをそれほど要求されない、コモディティマーケットでのシェアを圧倒的に伸ばした Red Hat が生き残ったのはうなずける。おなじことを目指した他のディストリビューションは、ある程度のマスをもたない限り利益を確保することができず、消えていった。

たとえばターボリナックスは中国ではそれなりに知名度を保ってはいるが、もはや OS のディストリビューションはほとんど手がけていない。最近では、中国のターボリナックスは LAMP の会社であり、MySQL によるソリューションを前面に出している。つまり、完全なソリューションカンパニーとなってしまった。

■メインフレームレベルを目指している Novell

唯一 Red Hat に対抗できているのは Novell だが、Novell は IBM System z において多数の実績があり、この分野でのシェアでは Novell が圧倒的にリードしている。

その理由は何であろうか。

エンタープライズ Linux で、Red Hat が順調に売上を伸ばしているときに、Novell は SUSE を買収し、実は“本当の意味”でのエンタープライズビジネスモデル、つまりソリューションやサポートを含めたサービスビジネスで地道に実績を伸ばしてきた。Novell にはもともと、エンタープライズをサポートする要員やリソースが世界規模で用意されていたことが背景として大きい。

つまり、世界レベルで展開するエンタープライズ企業にとっては、Novell は頼りになる会社なのだ。それは、Novell自体がもともとエンタープライズソフトウェア製品を提供する企業だった背景がある。Linux の開発エンジニアの数は、相変わらず Red Hat の方が Novell よりも多いが、Linux のサポートエンジニアの数は圧倒的に Novell の方が多い。

大規模なエンタープライズ企業が Linux に求めているのは、インストールして動くことだけではない。それは当たり前のことであって、インストール後の何年かにわたる稼動を保証する安心できるサポートが必要なのだ。当然、サポートに対してなんらかの料金が発生するという認識も、すでに企業側にはある。

Novell がハイエンドの市場で実績を伸ばしているのは、これまでのように、Linux は Unix よりも低コストだから、という単純な比較からではなく、サポートの質が評価されてきているからである。

冒頭で述べた Red Hat のソリューションサービスは、Novell では、SUSE を買収した時点で用意されていたものであり、現在ではサービスの種類も質も、そして実績もRedHat の発表内容を上回るものであることは明らかだ。

Red Hat が、中小規模のユーザーや、コモディティ市場での Linux の手離れのいい販売だけでは飽き足らず、ソリューションに本格的に参入すると宣言した背景には、このような様々な要因があったのである。

記事提供:Novell
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