japan.internet.com
マーケティング2009年2月16日 10:00
文字サイズ文字サイズ小文字サイズ中文字サイズ大

生活者参加型マーケティングでV字回復した P&G

この記事のURLhttp://japan.internet.com/wmnews/20090216/8.html
著者:株式会社ワールド・カフェ 代表取締役 笠原 造
国内internet.com発の記事
「7年間で利益3倍、売上高2倍、営業利益率20%」表1は小規模なベンチャー企業の成功物語ではない。売上高9兆円超、時価総額でトヨタ自動車をしのぐ巨大企業 P&G の実績である。

表1:P&G 売上高・純利益推移
出展元:執筆者作成
*クリックして拡大

■「消費者がボス」
2000年初頭、P&G は深刻な経営危機に陥っていた。従来の既存商品の売上が鈍化する中、当時 CEO の Durk Jager 氏は新製品開発を最優先させる経営改革を断行。ところが、成長を見込んで注ぎ込んだ R&D(研究開発)費やマーケティング費用が大きく膨らむ一方で、発売した新製品が次々と失敗。決算予測を4か月間で3回も下方修正した後に、起死回生策の M&A も失敗。株価が数日間で半分に下がり、Jager 氏は在任期間わずか18か月で辞任に追いこまれた。

このような経営危機の中、代わって CEO となった Alan George Lafley 氏は、企業から生活者へのパワーシフトという潮流を捉えた新たな経営改革を断行した。「消費者がボス」というスローガンを掲げ、「顧客理解」を経営の全ての起点にするという「顧客中心経営」への原点回帰を宣言。従来の技術開発に偏重した「テクノロジーアウト型 R&D」から顧客視点を基本とした「カスタマーイン型 R&D」への転換によるイノベーションを実現し、業績を急回復した。

では P&G は、どのようにして「消費者がボス」の経営改革を実現したのだろうか?お客様第一主義やマーケットインなど、類似のスローガンは多くの企業が標榜するところであるが、P&G の経営改革は何が違うのだろうか? P&G の経営改革について詳しく書かれている「成功は洗濯機の中に」(市橋和彦著 プレジデント者)を参考に、このすばらしい経営改革の本質を追ってみたい。

■オープン型開発モデル「コネクト&ディベロップ」
P&G は、従来より自社開発だけに依存する「自前主義」であった。しかしながら、市場変化や顧客要望に的確に応えるには開発力不足が顕著となり、新商品の成功確率は低迷。費用対効果も極度な低水準であった。そこで Lafley 氏は広く世界の知恵を活用することを決断。P&G の知的財産を外部の技術やアイディアにつなげて(コネクト)、それに基づき製品を開発する(デベロップ)、「コネクト&デベロップ」というオープンモデルを構築したのである。

表2:connect+develop
「コネクト&ディベロップ」のコミュニティ
*クリックして拡大

表2は、P&G が構築した「コネクト&ディベロップ」のオンラインコミュニティである。P&G は、顧客が望んでいるが、自社の技術だけでは解決できない課題をこのサイトで提示。すると世界中の企業や技術者がその解決策を提案。良いアイディアや技術については採用し、ロイヤリティ等を支払うというものだ。また逆に、P&G が自社の技術を世界中の企業や技術者に公開し、活用してもらって収入を得るということも行なっている。

例えば、Pringles というポテトチップスに直接文字をプリントする技術が社内になかったため、広く世界にその解決策を募集したところ、イタリアのパン屋が回答し、その技術が採用され、ヒット商品が生み出されたという。

このような「コネクト&ディベロップ」によって P&Gは、提示問題の3分の1を解決、技術革新アイディアの45%を社外調達で補完することができるようになった。その結果、開発コストが半減、生産性は60%向上、発表製品の80%が成功 (業界平均30%)するという目覚ましい改革を実現するに至ったのである。

■消費者が望むことを叶える「アイディア・イノベーション」
さらに Lafley 氏は、技術革新にはほとんど依存しない「顧客が望むことを叶える」イノベーションモデルとして「アイディア・イノベーション」を開発した。表3は、「アイディア・イノベーション」を実現するためのプラットフォームになっている顧客コミュニティサイト「ボーカル・ポイント」である。

表3:vocalpoint
顧客コミュニティサイト「ボーカル・ポイント」
*クリックして拡大

「ボーカル・ポイント」は、主力商品のターゲットである30〜49歳の母親層60万人のクチコミ・コミュニティである。会員は1日平均25人と会話するという、いわゆるインフルエンサー集団である。 会員には、サンプルやクーポンが提供され、実際に P&G 商品を使ってみて P&G との意見を共有する機会が与えられ、母親同士で分かち合いたいメッセージを交換することもできる。

P&G はこのコミュニティにおける会話を分析することにより、「顧客が望むこと」を理解して「気づき」を発見して、新商品の開発や既存商品の改善などのイノベーションを実現したり、新商品の事前テストや自然なクチコミ形成による販売促進などにも活用している。

実際の顧客と長期的な信頼関係を構築している中で、顧客と企業、さらには顧客同士が双方向でコミュニケーション出来る点で、企業が予め作った仮設に基づいて顧客を「利用」する従来のサンプリング手法などとは本質的に異なる。

ビジネスウィーク誌は、この「ボーカル・ポイント」を「米国で最も影響力を持つ買い物グループへメッセージを届けるための最新技術の方法」として高く評価している。

Lafley 氏は、オンラインコミュニティをフルに活用し、顧客や外部の英知に率直に声を傾けることで、「消費者がボス」をお題目ではなく本質的なパラダイムシフトとして全社に浸透させた。またさらに、その成果を踏まえ、「顧客と企業が共創」する新しいマーケティング・プロセスの仕組みを構築することに成功した。これにより、P&G は21世紀型の新たな経営改革を実現し、目覚ましい成果を上げることができたのである。


執筆:株式会社ワールド・カフェ 代表取締役 笠原 造
監修:株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役 斉藤 徹
japan.internet.comのウエブサイトの内容は全て、国際法、日本国内法の定める著作権法並びに商標法の規定によって保護されており、その知的財産権、著作権、商標の所有者はインターネットコム株式会社、インターネットコム株式会社の関連会社または第三者にあたる権利者となっています。
本サイトの全てのコンテンツ、テキスト、グラフィック、写真、表、グラフ、音声、動画などに関して、その一部または全部を、japan.internet.comの許諾なしに、変更、複製、再出版、アップロード、掲示、転送、配布、さらには、社内LAN、メーリングリストなどにおいて共有することはできません。
ただし、コンテンツの著作権又は所有権情報を変更あるいは削除せず、利用者自身の個人的かつ非商業的な利用目的に限ってのみ、本サイトのコンテンツをプリント、ダウンロードすることは認められています。

Copyright 2012 internet.com K.K. (Japan) All Rights Reserved.