![]() ![]() ![]() ![]() 実は意味を知らないビジネス用語、第1位の「クラウド」って何?この記事のURLhttp://japan.internet.com/wmnews/20090302/8.html
著者:株式会社ワールド・カフェ 代表取締役 笠原 造
国内internet.com発の記事
■2つの「クラウド」
2007年の「実は意味を知らないビジネス用語、第1位」(goo リサーチ)は、「クラウド・ソーシング」だったが、最近「クラウド」というと、もっぱら「クラウド・コンピューティング」である。Google で検索してみると、クラウド・ソーシングの18万8,000件に対し、クラウド・コンピューティングは91万8,000件という状況だ。 クラウド・ソーシングの「クラウド(crowd)」が「群衆」や「集合知」を意味するのに対して、クラウド・コンピューティングの「クラウド(cloud)」は、「雲」を意味している。 今はやりのクラウド・コンピューティングの意味するところは、データやソフトウェアの所在を意識することなく、いわゆるインターネットの向こう側、すなわち「雲」の中に移し、必要に応じて取り出して、使った分だけ料金を払うというものである。SaaS と類似している概念だが、雲の向こう側は必ずしも1社ではなく、かつユーザーはその先をあまり意識しないところが新しい概念だ。 その「雲」の中心になろうとしているのが、Salesforce.com、amazon、Google などである。「雲」は、コンピュータ業界の「電力会社」によく喩えられるが、電力会社は何社もいらないので、一部の企業間における覇権争いの体を様してきている。「群衆」とは正反対の寡占者だ。 ■クラウド・ソーシングとは? 一方、クラウド・ソーシングは、企業などがインターネットを通じて、「群衆」に対してアウトソーシングを行なうことを指している。 言葉としては、米国 Wired 誌の寄稿編集者である Jeff Howe 氏が同誌に掲載した「The Rise of Crowdsourcing」(2006年6月)という記事が初出である。広く世界の研究者に課題を提示して、解決策を募集するコミュニティサイト「Innocentive」などの事例を取り上げ、企業がネットをうまく活用することで群集の知恵を集約し、問題を解決したり、付加価値を創造したりする方法のことを「クラウド・ソーシング」と名づけた。 社外に業務を委託する「アウトソーシング」が専門の業者に委託するのに対し、クラウド・ソーシングは、開かれたコミュニティにおいて一般の群集(クラウド)が協力して行なうのが特徴である。 ソフトウェア開発においては、「オープンソース」という形でソースコードを公開し、誰でも開発できるようにするということが行われているが、そのような広く人々の知恵を借りながら共創するアプローチを、多くの分野に拡げたコンセプトが「クラウド・ソーシング」であるともいえる。 いまやクラウド・ソーシングは、市場調査、研究開発、商品開発、販売促進、カスタマーサポートなど、企業のあらゆるマーケティング活動において活用され始めており、その成果や成功事例も数多く見られるようになってきている。 ちなみに、Jeff Howe 氏は「ロングテール」の名づけ親でもあるそうだ。新たな現象を捉えて概念化した言葉をつくると、その言葉の普及とともにその現象が一気に拡がるということがよくあるが、そのような仕掛け人的人物だ。現在は、クラウドソーシングについての Blog サイト「Crowdsourcing.com」の管理人となっており、書籍「Crowdsourcing」も執筆している。 ■クラウド・ソーシングの真価 アウトソーシングのイメージから、低賃金もしくは無償で参加してくれる不特定多数の人々を募って開発作業を委託することにより、より安く経営資源を外部調達することが目的であるかのように考えてしまいがちだが、真価を発揮するのは「群衆の叡智」である。 「三人寄れば文殊の知恵」の三人が、世界的な規模で等比級数的に拡がっていく。また、P&G や Dell の事例にもあったように、一方通行のコミュニケーションではなく、顧客と企業や顧客同士が対話することにより、意見を交換し「文殊の知恵」を深めていくことができる。 また、クラウドのイメージから、不特定多数の人気投票に業務の全てを委ねてしまうというように誤解されることもある。当社がクラウド・ソーシングを企業に提案して導入する際、企業の商品開発担当者がクラウド・ソーシングを導入すると自分が不要になってしまうのではないかと心配になり、抵抗勢力になってしまうこともあるほどだ。 マーケティングの神様である Philip Kotler 氏も「双方向インターネットの登場により、一人芝居の『モノローグ』(企業側からの一方的なアプローチをさす)ではなく、顧客との対話によって価値を共創する」ことこそ、新しい時代のマーケティングであるとしている。 そこでは、企業からの問いかけや聞き出し、意見の交換などがとても重要になる。それにより、商品開発部門やマーケティング部門の生産性が上がり、より付加価値の高い開発業務へ進化することができる。 「クラウド」と言っても、目的によって不特定多数ではなく、特定の層に絞り込んだり、最初から条件を設けて制限する場合もある。例えば、P&G の vocalpoint は、参加希望者を面接によってスクリーニングしており、P&G の商品を買う頻度が高く、1日25人以上と会話する「インフルエンサー」に限定している。また、Innocentive の「オープン・イノベーション・マーケットプレース」に参加できるのは、同社からの高度な設問に回答できた人(科学者やエンジニア、発明家、ビジネスの専門家など)に限られている。 ■クラウド・ソーシングは“打ち出の小づち”か? 一方で、クラウド・ソーシングに過度の期待をするケースもある。クラウド・ソーシングのためのオンラインコミュニティサイトを作れば、何でも自由自在にソーシングができると考える人もいる。ボタンを押せば何でも自動的に出てくる”打ち出の小づち”といった具合である。 クラウド・ソーシングでは、オフラインの業務をオンラインを使っていかにレバレッジを効かせるかということが重要だ。これまで企業が築きあげてきたノウハウの塊であるマーケティングプロセスに、いかに「群衆の叡智」を取り込み、活用するかということがポイントである。 どのマーケティングプロセスにおいて、何の問題を発して「群衆の叡智」を集めるのか、問題の発し方を考えなければならないし、先入観を捨てて耳を傾けるとともに、多くの意見を「見える化」して効率的に分析、評価しなければならない。 また、クラウド・ソーシングに参加する群衆のモチベーション設計が重要だ。一部においては、経済的な報酬を提供するものもあるが、大半は、共感と信頼に基づくボランティア精神や認知欲求、自己実現欲求が中心である。通常のビジネスのように権利を主張して、義務を求めることはできないのである。群衆を業者扱いした途端、そのコミュンティは崩壊するだろう。 ■危険性もあるクラウド・ソーシング 当然のことながら、クラウド・ソーシングにも危険性はある。例えば、Dell は以前 IDEASTORM にオープンソースの OS を求める声が多数寄せられたことを受けて、同社の PC に Linux を採用するという決断を下した。 この案には数千人の票が投じられたが、もし Linux ファンが大挙して IDEASTORM に押し掛けていたとしたら、市場全体の声を反映しているとはいえない可能性もあった。クラウド・ソーシングだけで全てを判断するのは危険である。 このような危険性を最小化するためには、コミュニティが目指すゴールとコミュニティに参加して欲しいターゲットを明確にして、常日頃からコミュニティにおいて対話を行なうこと、また議論の焦点を絞り、適切なファシリテーションを行なっていくことが重要である。 クラウド・ソーシングについての事例を豊富に紹介している名著「クラウド・ソーシング ―世界の隠れた才能をあなたのビジネスに活かす方法―」では、群衆が戦略的な意思決定を下せるかどうかを試みて、失敗した事例も取り上げている。失敗したプロジェクトの創設者は次のように語っている。 「民主的な議論だけでは実のある意思決定ができない。プロジェクトのあらゆる側面を理解したリーダーたちが必要だった」 ■生かすも殺すも… 「クラウド・ソーシング ―世界の隠れた才能をあなたのビジネスに活かす方法―」に次のような一説がある。 「カスタマー・レビューをはじめ、クラウド・ソーシングによるマーケティングがあちらこちらで広く受け入れられるようになっていることは、企業と顧客の関係の質が根本的に変わったことを率直に物語っている。売りたい商品を企業が見せ、そのなかから顧客が選ぶという古い営業方式は、急速に姿を消しつつあるのだ。今日では、顧客のほうがしだいに支配権を握るようになっている。顧客は、使ってみた商品について好きか嫌いかを公言する。頼まれれば、改善点についても喜んで企業に提案する。今後はきっと、企業に対し、自分の好みにぴったり合う商品を考え出すことを求めたり、売り込み方や流通のさせ方を教えたり、そうした仕事がうまくなされたかどうか声高に述べたりするようになるだろう」 このように、生活者の力を生かすも殺すも企業次第である。「群衆の叡智」を活用するための、顧客との対話を中心とした新しいマーケティングスタイルと、マネジメント手法を実現する賢名な企業のみが“打ち出の小づち”を手にすることができるのだ。 執筆:株式会社ワールド・カフェ 代表取締役 笠原 造 監修:株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役 斉藤 徹
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