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ココロのスイッチの「インサイト」を見つけだす方法■ココロのスイッチ
前回のコラムで、「ペルソナ」や「エスノグラフィー」という心理学や文化人類学的なアプローチについて述べたが、その目的は、生活者自身でさえ気付いていない「生活者の深層心理や潜在的な欲求」を理解することにあった。 人口が減少、高齢化し、消費の成熟化や価格志向とこだわり志向の二極化がますます進んでいる中、顕在化している表面的なニーズの結果を追ったり、ターゲットを絞らずに漠然としたマスを対象にした従来型のマーケティングを続けていては、競合と差別化できないばかりではなく、低価格志向への対応で利益が減る一方であろう。 すぐ近くにもっと安いコーヒーチェーンがあっても、そこで飲まずに、スターバックスで満足気にコーヒーを飲んでいるのはなぜだろうか?また、車よりも高いかもしれないハーレーダビッドソンに乗って、中年の男性が高揚した表情をしているのはなぜだろうか? スターバックスに求めているのは、美味しいコーヒーではなく、ほっとしてリラックスできる時間と空間であり、ハーレーダビッドソンに求めているのは、移動するための乗り物ではなく、胸躍るハーレーダビッドソン体験だ。 「モノ」消費ではなく「コト」消費と言われて久しいが、「コト」消費の前に、その「コト」への願望を生み出す「ココロ」がある。「ニーズ」ではなく「ウォンツ」を捉えよとも言われるが、「ウォンツ」の根底にあるのも「ココロ」だ。その「ココロ」のスイッチが「インサイト」なのである。 ■「インサイト」とは? 「インサイト」とは、英語で「洞察」のことで、マーケティングでいう「インサイト」は、正確には「コンシューマー・インサイト」(消費者の洞察)である。 もともとは、欧米の広告代理店等が、消費者への訴求効果が大きいクリエイティブを生み出すためにつくって利用していたものだが、最近は、マーケティング全体でも使われるようになり、結果としての消費行動を起こす原因である「深層心理や潜在的な欲求」という意味となっている。 「深層心理」ということは、まさに「心理学」的なアプローチが必要であり、マーケティングにおいても、従来のように「モノ」や「消費」ということを中心に「インサイト」を考えてはいけない。 「モノ」ではなく「ヒト」、「消費」ではなく「ライフスタイル」における態度や行動を捉える必要がある。さらには、時代や政治、経済、文化などの社会背景、世代的な特徴、生い立ちや家庭、仕事などの環境などの要因も「インサイト」を形成しているのである。 下図は、インサイトの構造を図解したものである。時代や政治、経済、文化などの社会背景などから生まれる「ソーシャル・インサイト」、世代的な特徴から生まれる「ジェネレーション・インサイト」、生い立ちや家庭、仕事などの環境などから生まれる「プライベート・インサイト」が織り重なり、「インサイト」が形成されていることを示している。 ■重要な「ペルソナ・バーチャル体験」 こうした複雑な要因が絡み合った「インサイト」を発見するためには、「ペルソナ」が不可欠である。 「ペルソナ」というもっとも重要で象徴的な一人の人物像をあたかも実在するかのように作り、すべての「インサイト」を形成する要因を「ペルソナ」に落とし込むことによって、初めて「ペルソナ」を理解することができるようになり、その「ココロ」のスイッチである「インサイト」を見つけだすことができるのだ。 「ペルソナ」の仮説を立てて、プロフィールをつくる方法については、前回のコラムで述べたが、実は、静的な「プロフィール」だけでは、「ペルソナ」を本当に理解することはできない。「ペルソナ」の「プロフィール」が完成したところから、「インサイト」探しがスタートするのだ。 頭での「理解」というより、一人の人間として心で「わかる」ことが必要であり、徐々に「ペルソナ」の根底にある「インサイト」に近づいていくのである。 「ペルソナ」の人生やライフスタイルを追体験するためにつくるのが「ペルソナ・ストーリー」である。下図は、日本酒ファンのためのコミュニティ&ショピングサイトとして「日本酒天国.com」を企画する際につくった「ペルソナ・ストーリー」の一部である。 「ペルソナ・ストーリー」によって具体的なイメージがつかめたら、数日間、空想の世界で、「ペルソナ」とともに過ごして「ペルソナ」と会話したり、行動をともにしたり、あるいは、自分自身が「ペルソナ」になりきって、様々な体験をし、どんなことを考え、感じるかを想像してみると良い。いわば「ペルソナ・バーチャル体験」だ。 前回のコラムで述べた、「ペルソナ」に近い実在の人物と生活をともにするという、文化人類学的な観察である「エスノグラフィー」は非常に有効だが、時間的、コスト的な制約で実現が難しい場合は、この「ペルソナ・バーチャル体験」をお薦めする。 ■どうやって「インサイト」を見つけ出すか? 上記の「ペルソナ・バーチャル体験」や「ペルソナ」をつくる際に実施した「デプス・インタビュー」の際のひとつひとつの発言や語られた行動に戻り、「インサイト」のヒントになりそうなことに気付いたら、まずメモを取っておこう。 ある程度のヒントが集まったら、次にそれらのヒントを「ソーシャル・インサイト」、「ジェネレーション・インサイト」、「プライベート・インサイト」に分類し、さらに、それぞれの分類の中でグルーピングしてみると、相関関係がわかるようになり、葉から枝、枝から幹へとより根底の「インサイト」の理解が進んでいく。 下図は、「日本酒天国.com」の「ペルソナ」の「インサイト」である。数10個のヒントから、4つの「インサイト」にまとめることができた。そして、この4つのインサイトを1つにまとめたのが、もっとも根源的な「キーインサイト」である。 以上、前回のコラムから述べてきた、「インサイト」を発見する手順をまとめておこう。 (1)セグメンテーション 〜定量、定性データを分析し、ターゲットのセグメントを行なう (2)ペルソナ仮説 〜Blog のテキストマイニング分析、Web アンケートなどにより作成 (3)デプス・インタビュー 〜one to one のインタビューで、ライフスタイル、購買行動、情報収集行動などにつき実施 (4)ペルソナ・プロフィール 〜上記の調査、分析やインタビューの「事実」を分析・統合して、ペルソナのプロフィールを作成 (5)ペルソナ・ストーリー 〜ペルソナの生い立ちから現在にいたるライフスタイルを具体化し、立体的なイメージをつくる (6)エスノグラフィーまたはペルソナ・バーチャル体験 〜ペルソナを共同体験または追体験 (7)インサイトの収集と分類・グルーピング 〜ソーシャル・インサイト、ジェネレーション・インサイト、プライベート・インサイトに分類し、グルーピング (8)キーインサイトへのまとめ 〜根底にある最も重要なひとつのキーインサイトにまとめる 「ペルソナ」や「インサイト」は、コンセプチュアルな言葉だが、実際は、地道で骨が折れる作業と豊富な経験に基づいた緻密な分析から生み出されるものだ。しかし、これからのブランディングやマーケティングにおいて、極めて効果的であり、その成果は大きいだろう。 執筆:株式会社ワールド・カフェ 代表取締役 笠原 造 監修:株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役 斉藤 徹
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